4f ^全 # 文學篇

編輯

東洋 城- 島祐利

CHENG YU TUNG EAST ASIAN LIBRARY

TORONTO, CANADA 7U 《"お

訪ふ記

lev If - 1 一一 B

半日 ある . .

M

0

窮理 日記 - -

つき

知が へり-.

雪ち やん -

團栗.

龍舌蘭 . - -

森の 繪- - -

菊の 影- -

もら 物語

障子の -

伊太利 . -

物語. -

まじょ, 9

先生 通信 一四

物理 學の應 用に 就て 一六

則に 就て 一七

知と . 一九 0

物質と 一九

科學 上に 於け る權 威の 値と 弊害

科學 者と 藝術家 へ... ニニ

自然現象の 豫報 ....., ニニ

時の 観念と エントロピ-並に B , ノビリ ティ

物理 學と 感覺

瀨戶內 海と 潮流

物理 實驗の 敎投に 就て

3

夏の 小半日

田靑楓 君の 畫と南 畫の藝 的價値 二八

研究 態度の 養成

戰爭と 氣象學

蛙の 鳴聲 一三

科學 上の 骨董趣味と 温故知新 g

病中

病院の 夜明けの 物音

病室の

電車の 風呂

善と 三越 - -- - . Si

自畫像

4

小さな 出來事 1

鸚鵡の イズム

帝展を 見ざる

草紙 五八

-,

文學の 中の 科學的 要素

凍雨と 雨水 五一

漫畫 と科學 五一

旅日記から

厄年と etc. 1

5

五八

簑蟲と 蜘蛛

蜂が 圑子を こしら へる 丄ハ

田園 雜感 一六

m ,

ふ訪を 庵岸拫

訪ふ記

九月 五日 動物園 Q 大蛇 見に 行く とて 橋の 寓居 出て 通り はせ の鐵道 馬車に 乘り 上野へ

いたのが 頃。 今日は 曇天で 暑さ 薄く 道も惡 くないので 中々 公国. も娠 はうて 居る。 西 鄕の銅

Q 後から 門の 前へ ぬけて 動物園 Q 方へ 曲る 外國の 水兵が 人力と A しく 云って 直ぶ

をして 居た 話しが 纏まらなかった 見えて 間もなく 商品 陳列 所の 方へ 行って しまった。 ニラ

の歸休 兵と かで 茶色の 制服に 折惰を 冠った 0 がこヒ はかりで ない 途中で も澤山 見受けた。 動物

圜は 休みと 見えて 門が つて 居る 様であった から 博物館の 方へ それて 杉林の 中へ 入った。

子供が 集って いで 居る。 ふり 返って 見る 動物園の 門に m 舍者 らしい 老人と 小僧と

える Q 立って 掛札を 見て 居る。 其處へ 美術 擧校 0 ら窣が 臺幌を かけた Q 出て 来たが

れも そこへ 止って 云うて 居る 様子で あつたが やがて 叉勸 工場の 方へ 引いて 行った。 自分 も陳

Q 横切って ひの 杉林に 入る とパ 館の 前で やって 居る 樂隊が 面白さう

えたから つい 其方へ 足が 向いた 丁度 行く 切り だので あらう ぴたりと 止めて しま

つて 樂手は 煙草な ふかして じろ,/, \ 見物の 顏を 見て 居る。 後へ 廻って 見る 小さな 杉が 十本

ある 下に 石. の觀 音が ころがって 居る。 何々 姉と 刻して ある。 逆に 墓表と 見えす 墓地で

ない Q 見る となんでも 之れ 其處で 情夫に 殺された かの 供養に 立てた ので あるまい

など 涼な 感に打 たれて 其處を 去り、 館の 裏手へ 廻る 坂の 上に 三十 Q 女と 位の 女の子と

枯枝を 拾うて 居た から 之れ 迄の 聞いたら 丁寧に 敎へ くれた。 折の 油畫 にあり

さうな だな ど考 へながら 博物館の 横手 大献 院尊 前と 刻した 燈篛の 並んだ 處を 通って 行く

坂に なった。 道端に 乞食が しゃがんで 頻りに 叩頭いて 居た 誰れ 慈善. 家で ない 見えて

一文 も奉捨 にならなかった は氣の 毒であった。 之れ が柴 とりの 云うた 坂なる べし。 招據が

釜し 鳴いて 居る 車の 音の 聞えぬ 有難い 思うて 居る 上野から 出て 來た 列車が 煤煙

吐いて 通って 行った。 三番と 札した 踏切 越える 町で 辻に 交桥 所が ある。 帽子 取つ

恭しく 子規の 尋ねた 知らぬ との 故少々 意外に 思うて 見詰めた。 すると 之れ 案外

親切な 巡査で 戶籍簿 Q 樣な もの 引っくり返して 小首 傾けながら 見て 居った へって

2

訪を庵

內に晝 ねして 居た 人の 起した。 交代 0 時間が たからと 云うて 序に 此人 にも 尋ねて くれ

たが 之れ 知らぬ。 此の 巡査の 少々 撗柄顏 瘤に さはつ たれ 前の 親切に 對し又 恭しく 禮を述

左へ 曲った。 何でも 八十 一番と 思うて 居た 家々 門札に 氣を 付けて 見て 行く 中前

田の 邸と ふに 行當, たので 嫩石師 聞いた 出して 裏へ 廻る 小さな 小路で 角に 横町

札が 打って ある。 之れ 入って 黑板 解と 藪の 狭い 一十 間ば かり 行く 左側に 常規と

可也 新しい 門札が ある。 黑ぃ 冠木門 Q 開き戸 あける とすぐ 玄關で 內を乞 ふと 脇に ある

所で かして 居た 老母ら しきが 出て 來た。 姓名 告げて 漱石師 より 豫て 紹介の あった 害で ある

なと 述べた。 玄關 にある 下駄が 女物で 子規の らしい のが 見えぬ のが 先づ 胸に こたへ た。 外出と

夢の 外ないで あらう。 Q しき 隔て k 座を與 へられた。 初對 面の 挨移も すんで あた

見廻した。 四疊 半と しき 間の 中央に をのべ 絲の樣 に瘦せ 細った 身體を 横へ 時々 咳が

出る Q 白木の 箱の 取って 吐き 込んで 居る。 蒼白くて 頰の 落ちた 顔に 力な けれど

烈火 底に 燃えて 居る 樣に思 はれる。 左側に 机が あって 書ら しい ものが 積んで ある。 机に

さへ はぬ ので あらう か。 脇に 句集な 散らして 原稿紙に 書き かけて 居た 子で

ある。 番目に 止る 足の 方の 鴨居に 笠と 簑とを 吊して 笠に 「西方 土順禮 西 子」

3

蚩日 いて ある。 右側 Q 障子の 外が ほと \ すへ げた 園で 奥行 あらう 获の本 束ねた

が數株 心の 儘に 茂って 居る はま だついて 居らぬ。 まいかい 花が 落ちて うてな がま だ殘 つた

儘で ある。 .HI 花ば かり 咬き つて 居た 鵄頭は 障子に かくれて 丁度 見えなかった。 Q

から 漱石師 噂に なって 昔話 出た。 師は學 生の 至つ 寡言 な溫 順な で舉 校な ども 至つ

て缺 席が 少なかった 子規 俳句 分類に 取り ^ つてから 缺席 ばかりして 居た さう だ。 師と 子規

親密に なった 知り合つ てから もた つて 後で あつたが 懇意に なると 隨分 子供ら しく 議論

なんかして 時々 喧嘩な どもす る。 さう 風で あるから 自然 細君と いさか ある さう だ。

れを豫 知って 居らぬ 細君 驚く 事が あるか 知れぬ 根が 氣安 過ぎる からの 事で ある 驚く

はない。 ー體 誰れ に對 しても あたり 0 良い 人の 不平の 漏らし 家庭 だな ふ。 Q 庭に

いた 方の 鴨居に 彩畫が 一葉 隣室に 油畫, 枚掛 つて 居る。 皆不 折が 書いた ので 彩の は富士

六合 目で: 為々 たる 赭土 踏んで ふへ 行く 人物 ある。 油畫は 御茶の 水の 寫生、 餘り 名畫と

見えぬ である C 不折程 熱心な 畫家 はない。 もう 今日の 洋畫 家中 唯一 淺井忠 除けば いづ

れも 根性 卑劣な 娟嫉 の强ぃ 女の 様な 奴ば かりで、 淺井 氏が 今度 洋行す と-な 誰れ

引受ける 人がない C ないで はない が淺井 洋行が 厭で あるから 邪魔 しょうと する ので

4

ふ訪を 庵岸极

驚いた もの だ。 折の 如き も近來 評判が よいので 彼等の ひ旣に 今度 佛!: 覽會へ 出品す

積り 審査官の K 等が 仕樣 あらう に零點 をつ けて 不合格に してし まった さう だ。 かう

風で あるか ら眞 面目に 熱心 斯道 研究 しょうと ふ考へ はなく しく 名が 出れ 肖像

いて 黄白 貪らう ふさ もしい 奴ば かりで、 中に 適、、 不折 様な 貧乏 である

から ふ樣に 研究が 出来ぬ。 そこらの 車夫で モデルに ふとなる 拾錢も 取る。 少し

女な どになる とどう しても 圓は 取られる。 それで 中々 時間 か,^ るから 研究と 口に 云うて

容易な 事で はない。 景色 畫で もさう だ。 先頃 州へ 生に 行って 廿日 Q ふる 休ます

いて って來 ると 淺井 氏が もう 週間 行って 直して いと はれた から 行って 來て漸 々出來

上った 云って 居た さう だ。 それで 兎に角 熱心 ひどい から 餘り 器用な でもな くま 未熟

では あるが 成效 する だら うよ。 ほと k ぎす Q 裏繪を かく 山と 男が あるが 男は不 折と

丸で 反對な 性で 趣味 新奇な 洋風の 好む。 手先 は不 折なん かとち がって 餘程 器用 だが どう

不勉強で あるから 來は少 々不 折に 越され さうな。 それが ちと 近來 不平の 様で あるが それ

かと 云うて 不精 だから 仕方がない。 あの 位の 天才 抱きながら 終に 折の 熱心に 勝を讓 るか

知れぬな 話して 居る 上野からの 汽車が 隣の 込の ごんく 通った。 隣の 庭の 折戶 5

上に 烏が 下りて くと なく。 夕日が 半分 入って 來た。 折の 一番 得意で 他に

及ぶ 者の いのは 日本に 連載す 様な 意匠 畫で 是れ こそ 他に 類がない。 配合の 巧な 材料の 豐富

なのに 驚いて しま ふ。 例へば 題な 難題で も何處 かから 引つ ばり 出して 來て苦

もな 持へ る。 體無學 云って よい 男で あるから 之れ 等が いろんな 入智惠 をす るの

人が ある だが 々そんな 事で はない。 等が 夢にも 知らぬ 様な 事が 山あって 々說明

聞いて 漸く 合點が 行く 位で ある。 どうも 奇態な だ。 先達て 日本 新聞に げた 瓦の など

最も 得意で 實際眞 出来ぬ。 あの Q 近頃 秀眞と 美術 校の 人が 物にして 茶托に

こしら へた。 そいつが 出来損な つたの 僕が 貰うて あるかち 見せよう とて 見せて くれた。 十五

內漸々 出来た さう で、 其れ 穴だらけに出来て 中に 破れて つた Q あるが、 其れが 却て

段の 趣味 を增 して 居る だと 云うたら 子規 同意した。 巧に 古色が 付けて あるから どうしても

百年 G ものと しか 見えぬ。 中に 蛎牛を はして 「角 ふりわけよ」 句が 刻して あるの など

隨分 面白い。 とちが つて だから 蝸牛が 大變 よく 利いて 居る とか 云うて 不折も 餘程氣 入つ

た樣 子だった。 羽織 質入れしても 是非 持へ させる 云うて 居た さう だと。 話し 半ばへ 老母が

琲を 酌んで 來る。 子規に 牛乳 持って 來た。 汽車が 通って 紹據 Q 聲を 打消して いった。 初對

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IS ふ訪を 庵岸极

面から ちと 厚顔し ぃ樣 では あつたが 自分 は生來 緒が 好きで てよ ぃ不折 Q 翁が 別けて 好きで

つたから 序が あったら 何でもよ いから 枚吳れ まい かと 頼んで 下さいと 云ったら 快く 引受けて

れた Q 嬉しかった。 子規 小さい 時分から 緣畫は 非常に 好きだが 自分 一向 かけない C が殘念

でた まらぬ と. i; つて 居た。 は签" 傾いた。 Q 屋敷で 琴が 聞え る。 昔樂は 好き かと 聞く

きら ひで はない 悲しい 樂の事 少しも 知らぬ。 どうか 調べ 見たい ふけれ 此れ

では 到底 駄目で あらう。 尤も 此頃 人の 話しで 大凡 こんな もの 解った だが 元来 西洋の

など 遠くの バイ オリ ンを 聞いた 計りで ピアノ なんか 聞いた はない からな ほさら

だ。 どうかして あんな Q 問け る樣 にも 度な 度い ふけれ 其れ 駄目 だと 云うて

く默 した。 自分 何と 云うて よい 判らなかった。 IhI 然として 吾も默 した。 汽車が 來た。 色々

議論 る樣 であるが 日本の 樂も今 儘で 到底 見込が いさう だ。 國が 箱庭 的で るから

昔樂 まで 箱庭 的で ある。 音樂學 校の 樂窒で 琴の 彈奏を 聞いた 遠くて 琴が 聞え 位の 事で

物に ならぬ。 天井の 俄い 狭い 室で なければ 引合 はぬ 見える。 それに 調子が 純で する

熱情がない からな ほ更 いかん。 自分 素人 考へ 何でも 樂器は 指の 先で くもの だから 女に

した ものと 計り 思うて 居た 中々 そんな いもので はない。 日本人が 西洋の 樂器を 取って ならす 7

はなら すが 音樂 にならぬ Q はつ まり 手の 情が 調で 狂す ると 事がない からで、 西

洋の 名手と 行かぬ 人で も樂の 大切な 面白い所へ くると 夢中に なって 仕舞 ふさう だ。 これ

日本人の 3 似の 出来ぬ 事で 方がない。 殊に 婦人 駄目 だ、 冷淡で (情がない から。 伴の

妹な 時評 判で あつたが 駄目 だと だ。 {仝 曇った のか 日が 上野の 山へ かくれた

疊の 夕日が 消えて しま ひっくく ほふし の聲が 沈んだ 様になった。 はいつ 間に 飛んで 行つ

居.^.。 出ます 云うたら 宿 は何處 かと 聞いた から 日中に 中の 寺へ 籠る 話して

告げて 門へ 出た。 隣の 琴の 音が 急に なって かき さる- -樣 な氣 がする。 不知 不識 其方へ

路次を 入る - 狹く なって 戶が道 ぎって 居る。 傍で 若い 女が 磨いで 居る-

流しの 板の すべり さうな 踏んで 側へ 越す 柵が あって 鐵道 線路、 山の 裾で

ある。 其處を 右へ 曲る とやう く廣ぃ 街に 出た から 草の 方へ 運んだ。 琴の 張つ

来る。 道が 狭くな つても との 邸の 裏へ 出た。 こ、 から 元来た i 番所の あるいて

こ、 から..^ すに 直に 行く 踏切 越えねば ならぬ。 琴の はもう ついて 來ぬ。 森の 中で

くつく ほふし ゆるやかに 鳴いて、 日陰 だから 人が 蝙蝠傘 阿彌陀 にさして ゆる./^ あるく。

上に 人が 澤山 停車場から 雲閣 Q 眺めて 居る。 左側の 柵の 中で 子供が 石炭

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ふ訪を 庵岸拫

つたり 押したり して 居る。 機關 車が すさまじい をして 家の 出て 來た。 草へ 行く 積り

であった 折角 岸で 味うた 淸閑 Q 情を輕 業の 太鼓 賽錢の 音に 汚が すが 廐に なった から

ると 急いで 鐵道 馬車に 飛乘 つて 窮屈な 目にあって、 ふに 坐った 金緣 眼鏡 隣に 坐った 禿

頭の 行商と 欠伸の 掛け合 ひで つて 来たら 大通りの 時計 臺が六 打った。

(明治 三十 九月)

9

八月 廿六 で- -先づ 欄干に 倚る。 空よ 晴れ 朝風 \ 肌寒く 萩の みだれ 吹い

て葉鵄 頭の 色鮮 かに 穗先大 かた 黄ばみた ffl 見渡す。 北の 山の 根に 消え やらす、 柹の實

にかち りと 昔し 宿 如く にさめ たり。 しばらくの 別れ 握手 吿ぐ 妻が 後れ

毛に ゆらぎて 蚊帳の ゆら/ 立つ めり。 所に 杯盤の 昔、 戸口に 見送りの 人聲、

はや 出立たん 吸物の 前にす われば 床, 間の 三寳 に枳殼 飾りし 親の情 先づ 有難く、 此枳殼 誤って

足に かけ たれば 取り かへ てよ 人の もうれ し。 一順。 早く 行て 船窒へ 取り ませねば

上れば 婢僕 親戚 上り 框に集 ひて 荷物 車夫に 渡す C 忘れ物 はない か。 御座り ませぬ。 そんな

皆さん 御機嫌よ くも 云った 積り なれ どや- - 夢心地 なれば たしか ならす。 玄關を 出れば 人々

鳴らして ついて 來る。 用意の 車五輛 口々 何やら 云へ どよ 耳に 入らす。 から,, 引き

出せば 後に 御機嫌よう. の聲々 餘り惡 からぬ ものな り。 見返る 監獄の 壁に かくれて 流れる

に漣漪 動く。 韋駄: 叱す 勢よ 松が 端に 馳け付 くれば 旅立つ 見送る 人人 船頭の Q 、しる

聲々。 車の 音。 端艇 涯を はな るれば Q しづく 屋根板に はらく 音す る。 Q すれあ ふ音漸

止んで 中流に 出で たり。 水害の-名 殘棒 堤に しるく 砂利に 埋る、 あはれ なり。 左側の

樓に 坐して 此方 見る 老人の あれば 屹度 中風よ はよ 見立てと はやせば 皆々 ふ。 新地の

聞えぬ 嬉しくて 山臺迄 行けば 小蒸汽 後より 越して 行きぬ。

Q 大名 君、 すれち ひし 船の 早き 驚いて れは何 船と 御附き 人々 かし

こまりて、 あれ はちが なれば かく 早く こそと 申せば、 さらば 其ち 造れと 仰せ

られ し勿體 なさと 父上の 話に 皆々 どっと 間に 新田 堤に か、 る。 並んで 行く 船に 莉谷氏

も乘り 居て 之れ 今日の 船に 行くな りと かにて 母堂 船窓 より さしのべて 挨拶す

様ち 可笑しく なりたれ ど、 じっと こら ゆる さし 込む 朝日 暑ければ 障子 ぴたりと しめたり。

程なく 丸の 舷側に つけば 梯子の 混雜例 Q 如し。 荷物 上げ かまへ、 まだ 出帆に

あれば 岩驅亭 へつ けさせ 飯した k む。 江上 油の 如く 白鳥 飛んで 愈、、 靑し。 0 溜池に

動かす 樣がを かしくて 見て 居れば 呼, 汽笛の 聲に 何となく 急き 立ちて 端艇 出させ、

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殊更 氣を 付けて 父上 一句、 さらば 無事で 子供 等の 聲々、 後に 聞いて 梯子 驅け 上れば

水. «! 泡立って あたりの 景色 廻り 臺の樣 にくる くと 廻って ンケチ 帽子 ふる 見送り C

人。 之れ に應 する 客の 數々。 いつの 間に 船首 めぐらせる 端艇 小さくな りて G 顏も 分き

なれば 甲板に 長居 Q 元と 窮屈なる 船室に 込み 用意の 葡萄酒 杯に 喉を沾 して 革飽枕

横に なれば 甲板に もや 汽笛の 音。 出る よと 思へ 窓外 を靦 く元氣 もな し。

取り出で K む。 宙外 Q 一三 みかくれば 船底に すさまじき 昔して 船體に はかに 傾け

り。 i^E 々思 はす 上る。 港口 せた る爲キ ルの 砂利に 觸る、 なるべし。 餘り氣 味よ からねば

Q 所讀ん では たれ 何が かいてあった かわから ざり しも 後に 可笑し かりけ る。 船の 進む

につれ 最早 氣味 悪き はやん 動搖は 漸く りて ゃ胸惡 きを をし めて 專ら小 說に氣

取られる 樣に勉 むれば やうく に胸靜 まり、 さきの 葡萄酒の 醉心。 ほっとして いつしか 書中 C

人となり ける。 I ィの晝 をす、 むる 耳に 人り たれ どもと より 上る さへ 出来ざる 吾の

杯す、 る氣 もな く默 つて 讀み續 くる 實は此 様なる 靜穩の 海上に 杯の さへ はぬ

れん Q 口惜しければ なり。

篇廣吿 隅々 迄讀み 終りし は身體 やう やく 動搖 になれ 心地 や、 すがく しくな り、 半ば

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起して 窓外 見れば { 戶岬を るな り。 燈臺の 白堊 日に やいて 舟の

內に隱 見す もの 四。 これに 鶏が 飛んで 居た 書けば 都合よ けれ 飛魚 飛ばねば

なし。 傾く 深黑 なる 奔潮 天と地と 問に 向って 狂奔す るかと 壯觀は 筆に

言語に も盡 すべきに あらす。 甲の 過ぐ ふ頃ハ より 釵櫃膳 取り 下す I Q

聲八ケ ましき 夕飯なる べし。 少し 大膽 になり 上り 取る 思の 外に くて

しからす。 隣り 坐りし 三十 Q 叔母 樣の 御給 忝し くれば はや 厥に なりぬ。 m

さんと 御座らぬ かと わめく 0 濁聲 うるさければ つて 居け るが りに 呼び 立つ

オイ 何んだ 上れば 方です かと 怪訝 額なる も氣の 毒な り。 何ぞと 言葉 和げ て閒 けば、

上等 〔至 £刈 谷さん から 之れ を責 方へ、 出す あくれば 二つ。 有難し とボ ィに禮

早速 頂戴す るに 半分 力に して 胸つ かへ たれば 勿體 なけれ 殘りは 窓から 投げ出し

横に なれば 室內 漸く 暗く 人々 G 苦にせし 夕日 消えて 甲板 下り 來る人 多くな り、 窮屈 さは 一服

甚だし けれど 人に あらねば もな し。 隣り 言葉 訛り 奇妙なる 一人 連の 饒舌 もい びきの

音に つて、 ふの せな あが 追分 歌ひ始 むれば 甲板に 誰れ 持て たもの 轡蟲の 鳴き 出した

るな 面白し。 甲板 あちこち する 船員の 昔が コッリ /.\と 言文一致 なれば 書く なり。

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いつしか 飛んで 赴く 處は鷹 城の ほとりな りけん、 なつかしき 人々 まざ. C 見て 驚く 舷侧

潮の 音。 ねが りの 耳に 飽の假 枕い たづら 堅き 悲しく 心細く われながら 淺猿 しき 事な り。

淺夢 再び さむれば、 もう 神戶が 見えます ると 隣り 女に ぐる の聲。 さて こそと に元氣

つきて 窓を观 きたれ 月な S 淡路島 見え 分かす。 再びと ろくと して むれば 旣に港

內に 入って 窓外に きらめく 舷燈の 赤き 靑き。 汽笛の ゆる 如き 叫ぶ 如き 深夜の 寂寞と

らぬ 港ながら 帆柱に ゆらぐ 星の 追が に靜 かなり。 革飽と 毛布と 蝙蝠傘と 兩手ー ばいに か、

狭き 梯子 上って E. 板に 上れば 旣に 船は棧 橋へ 着きて 居たり。 ^谷 氏の 昨夕 G をのべ

下り 安松へ 上る。 七と 人と 同室へ 入れられ、 宅へ 書した、 む。 時計 見れば

三時な り。 しかし 時の 急行に 乘る 積り なれば 付いて 眠る もなかる べしと 漱石師 などへ

もな 書した、 む。 ラムネ 取りに やれ たれ ど夜屮 にて 無し、 も同樣 なりとの 事な り。

退屈 さの 啜れば ふくれて 心地よ からす。 角す る內 東の 穴于; II 渡りて 茜の 一抹と 共に 星の

まばらに なり、 軒下に 車の 音し げくな り、 時計 見れば 旣に五 時半な り。 急いで 朝飯 かき 込み

氏と 停車場に けっくれば 用拾氣 もな 汽車 進行 始めて 吐き出す 煙の 音乘り 遲れし 吾等

嘲る 如し。 珍しき 事に あらね 々しきもの なり。 先づ 荷物 預けん とて 二人の 一緒に

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らす。 贰圓と 馬鹿々々 しけれ もな し。 公へ でも 行くべし とて 出立たん とせし がま

てし ばし 名古屋 にて すれ ども 直行 なれば 手荷物 別にすべし とて 再び 切符

切り 換へを 求む。 員の 不機嫌 甚だしき も官線 張官線 丈け の權 力と もの あるべし

と、 かしこみ 奉り 切符 頂戴し 立ち づれば 吹き 上ぐ 嵐に 藁帽 飛ん でぬ かるみ

走る 事數 間、 漸く 付きて 止め たれ 泥に まみれて 餘り 立派なら ぬ帽の 更に 見ば 落した

重ねく 失敗な り。 なれば 之れ 立た す。 線路に 沿うて 行く。 Q 店に

つて ラムネ 瓶に 夜来の 渴望も 滿 したれば 、に 小荷物 預けて 公祠迄 行きたり。 龜の 遊ぶ

見たり 面白 くもなし 湊川 行て 見ん とて を. る。 なれば 白面 魎魅も かくして

並ぶ る小亭 閑と して 人の ある 稀な り。 並木 G 涼しき 木の 根に 腰かけて 憩へば 晴嵐

鳴らして 衣に 入る。 枯枝を ひて 砂に 嗚呼 忠臣な すれば 行き来の 吾等 見る。 半時

も兩人 無言に 美人 通り さう にもな C 漸々 立上りて 下流へ 行く。 河と 名ば かりの 黄色き

水の なくて、 照りつ Q きらめく 暑さうな り。 川口に りて 海面 鏡の 如く 帆船の 大き 小さ

きも C 通より 元の 道に 出. 前の 氷屋に 一杯の 玉壺を 呼んで 荷物 受取り 停車場に 行く。

漸く なれば まだ 四時 はこ 、に 待つべし 思へば へられぬ 欠伸に ふに 坐れ 様け

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額して 見る。 維れ 金と ば此 四時 金に 當るゃ 知らね あくびと 煙草の 煙に 消す

殘念 なり、 いざや 人物の 觀察 にても 始めん 見開けば 隣り 腰かけし 半天の 煙草の

誤りて 落し あわて、 引きの けたる 我が さまの 吾ながら 可笑し けれ はす

出す" 此男バ 隱元豆 入れた る提 籠を携 へたる が領 しるしの 水雷 亭とは 珍しき 見て 居れ

やがてべ ンチの 隅に 倒れて ねて しま ひける。 野と 本に 見知りた 来れり。

席な りし 來り野 並も來 る。

\ 新に 入り りじ 一人 いづれ 新婚旅行と 見ら k 出立。 すぢ向 ひに 構へ

懵の 庇より うか 1. 奉れば、 Q 御かん ばせ すこし 瘦せ玉 ひて 時々 聲に何 物語り ふ雙頰

薄紅 さして ゆげな り。 人々 視線 一度に 此方へ 向へば 新郎の パナマ もうつ むきけ る。

一人 もな 大阪行 Q にて 去る。 引きち がへ 入り 來る 西洋人の たけ 低く 顔の たけ 著しく 短き

赤き 額に こればかり 泥なる ひねりながら 煙草 人力に はせ 側の ブラ トフ I ムに

かけ 煙草 取り出して かき 上ぐ るな ど餘り 上等 瓧會 にも あらざる べし。 之れ 同じ, H

けたる 連れの 長く 頻髯 見事 なれ 歩み方の なる 義足なる べし。 此間 改札口 幾度 開か

れ又閉 ぢられ 汽笛の 止む もな し。 來り人 去って いつ 待合の 隅に 殘るは 吾等の みなる

16

つまらなき。 漸く 十一 一時と なりて、 プラット フォ でんと すれば 次の なりと つき

へされし、 重ねく Q 失敗な りけ る。 やう やくに して 新橋 行のに 乘り 込む。 客車 くして 腰掛の

うす 汚き 我慢し むれば 窓外 Q 動き 出し 新聞 責の聲 後になる。 右に 未だ 靑き稻

を距て X 白砂青松の 中に 白堊 Q 高樓 蟹の 鹽屋に 交り、 上に 抹の 海靑く 汽船の 往復す ゆ。

左に 從ひ來 山々 黄色く はれて まばらなる 松ち びけ たり。 中に 免の 伏せた らんが

見え隠れ する ひの 商人 Q 男に ふ。 何とか ひし 車の 音に 消されて 判らす。 再三

ひかへ せし 訛の なれぬ 終に わからす。 氣の 毒に あり 可笑しく あれば 終に 儘に 止み

ぬ。 後に 聞けば 山と 由。 あたりの 山と 著しく 模様 變れる いづれ 別に 火山 作用に 隆起

せる なるべし。 此れ Q みは 樹木 黑く 茂りたり。

蟬な くや まばらに 禿たり

など 例の そろく 出で 來る。 大阪 にて 南學校 出ら しき 黑挎 下り、 客も增 したり。 幸に 天氣

餘り 暑から ざれば 迄に 苦しから す。 ぐれば 一兵衛の はと 聞け 知る 人な し。

らしき 見え. や、 隣り 男の \ 定九郞 らしき ばかりな り。 五十 位の 田舍 女の 取り出

して 頻りに 髮梳る どちら 迄と 問へば 「京 行く のでがん す。 息子が いと ひます のでな あ」

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言葉つ 不思議なる を、 はと 問へば 廣島 近在の ものなる. s。 飾- m ー點 なき も樸柄 Q さま 氣に

入りて さまぐ 話しな どす る內 京都々 々と 呼ぶ 車掌の にあわた しく 下りた るが 群集の にか

くれたり。 京に 入りて 息子と かの 宿に 行く 迄の 途中い \ か覺 束な はる、 他人の いらぬ

知らす。 やがて 稻荷を 過ぐ。 人形に 出す 多く、 祭り 日の 條立 並ぶ 景色に 松簟添

へて きし 折の 筆な 胸に 浮びぬ。 過ぎて 竹薮ば かりの 里に 入る。 左手の 小高き 岡の

ふに 大石 內藏 助の 住家 今に 殘れ る. s。 先づ となせ 小波が 道行 姿 心に 浮ぶ 可笑し。 ゃ\暴 初め

空に 篁の 色い よ./ \\ 深く して 淸く靜 かなる 里の さまい となつ かしく、 願く 一度 は此 Jell- にしば

らくの 假り Q 結んで 篁の 蟲の聲 田の 蛙の 音に うき 世の 塵に 汚れた 腸す,^ がんな

汽車 はいつ しか 上り坂に か、 りて 兩側 Q 迫り 來る。 田の にしれ いの 如き 草花 面. R 何と

Q にや。 この 邊り迄 打つ 男女 何處 となく 悠長に 京び たるな ども うれし。 茶畑 多く あり。

なれば 茶摘み 汽車 Q より 眺めて 手拭 群に あばよ などす るも與 あるべし など ひけ る。

谷に 着く。 此上は 逢坂な り。 此名を 聞きて 出す 昔の 語り草 はなら ぶる 管なる べし。 さね

かづら どんな もの かしらす、 ひで 崖に 水した、 つて 線路 Q 溝に 落つ 涼し。

窓より さし のべ 見る に隨道 眼前に 然として ふの ロ錢 のま はり 程に ゆ。 之れ la

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ぐれば 左に Q 蒼く して 漣漪 水色 縮緬 延べた らん 如く、 遠山 糢糊 として Q 果て 見え. や。

左に 近く 大津の つらなりて、 井寺 木立に 見え かくれす。 あの 邊か など 思へ

みし 事なければ 石山 粟津 もす 判らす。 九つ 父母に うて 東海道 下りし \

Q 樓に繊 魚の Q 骨と 肉と 面白く 離る \ 面白がりし 事な 出して は此頃 0 吾な つか

しぐ、 父母の 老い ひぬ 悲し かり。 さて は白灣 子と 共に 古屋に 遊びし 歸途 伊勢 經て雪

\ 一夜 明せ 淋し さな ども さま, ^低ば る。 津の姥 昔の なじみ なれば 求めん

汽.: 出で たれば さす。 SQ 渡る 稀に、 徒に 風に 戰ぐを 見る。 白帆の

二つ。 淺き 汀に 臉樣の もの 立て 廻せ 漁りの 業なる べし。 百足 昔に 變ら す、 太の 名と

共に いつ も稚き 耳に 響きし 忘れざる べし。 湖上の 景色 飽かざる 間に *i 根城 いつしか 後に

なり、 膽吹 山に 綿雲 ひて 濃路に 入れば 雨模様と なる。 垣の 商人ら しき 五十ば かりの

頻りに 垣の 近況 語り 關が原 Q 戰を說 く。 あたり 漸く 薄暗く 工夫 體の男 甲走りた る聲 張り上げ

出せば 商人の 娘堪へ かねて キ、 ふ。 木曾川い つの 間に 越えて 淸洲と ふに、

此次は 名古屋 よと 仕度す 間に 電燈の 蒼白き aw れる 空に じ、 はやさら ばと 一行に 別れて

ラッ トフ I ムに 下り立つ。 文へ ひしが 知らぬ 家も與 あるべし 停車場 前の 萬と ふに

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入る。 二階の ー窒狹 けれ 今宵 ゆるやかに 寢る べしと 思へば 船中の 窮屈 暑さに くらべて

中に 心安 かり。 浴後 茶漬 快く、 によれば 驟雨 沛然 として トタン 屋根 を傳 點滴 昔す

く、 電燈の 光地 上に うつりて 電車の 往き かふ 騒がしから す。 かう なれば 宿帳つ けに 來し 男の

濡れ かき 分けた 涼しく、 隣室に リンと 鳴る コップの 涼しく、 ふの 窒の攔 干に 倚り

女の 白き 浴衣 涼しげ なり。 昨日より Q 疲れ 一時に 去られし にてから Q びくと なる *

を拍ち をのべ させ 横に なれば 新しき 浴衣の さは 快く、 隣窒 話聲 遠き 様に 聞え

いづこ 飛んで 藻ぬ けの となり 電燈 消しに 來し事 もい つか 知らす。 かなる 里の

飛んで 眼覺 むれば Q 親燈 蚊帳 0 外に 朧に、 時計 見れば 時な り。 口す、 ぎな

どす る內空 ほの ぐと 明け はなれた るが 昨夜の 雨の 名殘 まだ 晴れ やらす、 蚊帳 まくる 風し めつ

ぼき も心惡 からす。 膳に 向へば 大野 汁。 樓に假 寓の昔 出さし む。 勘定 をす ませ

肥え太り たる 低き 女に 革飽 提げさして 停車場へ 行く 樣、 馬と 豚の 道行と 見るべし

笑し。 此豚 存外に 利き. たる 奴に 甲斐々々 しく 何かと 世話し 吳れ たり。 間もなく 驅け來 列車

隅に 構へ 煙草 取り出せ ばべ ルの音 忙しく 合圖の 呼子。 汽笛の 聲。 田の 八劍森 陰より

し拜 みて ト會 社の 煙突に 白灣 子と 燒芋 かじりながら あたり 徘徊せ し當時 浮べ

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は宮川 行の 夜船の 寒さ。 さて 五十鈴の 一見の など 昔の 草枕に 居眠りの 結ばん とす

共なら す。 大府岡 御油なん 昔し Q ばる、 多し。 豐橋も 後に なり、 鷲津 より 坂に か- -る

頃より 漸く 海岸に 近づきて 名の 窓外に 靑く、 右に 州洋杳 として 天に 連る。

ひて こぎ 出せば 欸乃 風に 漂うて 白砂 Q 上に 黑き 鳥の 群れ 居るな 十六夜 日記 儘な り。

松に 下りる 乘る人 共に 多く 窮屈 更に 甚だしく なりぬ。 川と 云へば 夜の はと 見廻

せど 僅に 歳の 此處を 過ぎし なれば あたりの 景色 更に 見覺 えなく、 枝な Q

续れる なれば 覺束 なし。 谷の 隊道 長くて 灯を點 したる、 之れ 蛇の 住みし かと ひし

しれ 者の 事な 出す。 岡に て乘客 多く 入換 りたれ 美人ら しき 遂に 乘ら す。 東の

雨す と覺 しく、 灰色の 雲の 中に 隱見 する 頭い くつ 模糊と して 緒に 似たり。 其れに 引き かへ

西の 麗しく 晴れて 白砂青松に 日の 光鮮 なる、 之れ 水彩畫 にも 譬ふ べし。 雨と との 中に あり

雲と 共に 東へ くと 行く なれば、 ふる かと 晴れ 晴る、 かと 大粒 Q 玻璃 窓を斜

打つ 變幻 極り なき 面白さに はす 窓緣 をた.^ いて 妙と 呼ぶ。 車の 音に 消されて 他人に 聞え ざり

しこ 合せな りけ る。

井川の 涸れく にして 籠に 離々 たる、 越す 越され ざり し朝貌 日記 何とかの は更な

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り、 雲助と G 肩に よって 渡る 侍、 磧に鋭 立て よむ 行脚な 廻り 籠の 様に 眼前に 浮ぶ

心地 せらる。 街道の 並木 Q さすがに 昔の 名淺を ども 茶」 にあれ C

見る 由な く、 僅に 馬士 歌の 哀れ 止む Q みなる も改る 御代に 命つな 得し 白髮の 媼が圍

爐裏 Q そばに 水湊す りながら 玄孫 0 語り草な るべ し。

あたり Q 景色 北齋が 道中 畫譜を 儘な り。 興津 過ぐ る顷は 雨と なりたれば 士も三

えす、 眞靑 なる 海に 白浪 風に 騷ぎ 漁る 船の 見えす、 邊の砂 雨に ぬれてうる はしく、 先手の

隨, 亦畫中 c: C なり。

鹿小驛 ながら 近來 海水浴場 開けて 都府 Q 人士の 避暑に るが 多ければ 次第に 繁昌す 由な り。

邊甘 11^ 多く あり。 入る、 肥料なる 異様 Q ほり 突きて 靜岡 にて 求めし

辨當 開ける Q 胸惡く せし 可笑し りけ る。 津を過 ぐれ 雨雲 ふさがりて 富士も 見えす。

御殿場に て乘客 更に したる 窮屈 さ、 かう なれば Q 照らぬ がせ めても 合せな り。 小山。

近けば 次第 上りと なりて 溪流 脚下に 遠く あり。 Q 屋根に 鳴きて 雨を帶 びた

E 青く、 車中に 御殿場より りし 爺が 提げた る鈴蟲 なくな ど、 拔幾百 尺の かさ 淋し

ささ まぐ 嬉しく、 哀れ 止む 馬士歌 C- 貫き 溪を かける 汽車 なれば 守の

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記上朿

地に すりつ くる 面倒 もなければ 煙草 服の 間に 北に つく。 しきり 來る 村雨に 鮎の 鮮賫る

男の 袖し なる あはれ。 あたり 線路の 工事中と 見えたり。 山霧 深う して 號標の 芒の

淋しげ なる、 霜夜の やい かに 淋し からん。 -

これより 下り坂と なり、 國府津 近く なれば 晴れたり。 越えし 山に 綿雲 か、 りて 其處 とも

見え 分かす。 さきの 歸府津 にて 宿 まれ 漸くに して 搜し當 てた 町外れの 宿に 一階 0 敍歌を

騒がしが りし 夕、 夕陽 Q 中に 士足柄 望みし 折の 嬉し さな 思し 出して あの こそな 見廻

す內 にこ \も 後に なり、 大礎 にて 乘客增 す。 海水浴が へりの 女の 群の 一様に 犬なる 帽子

ぶりた るな 目に 立つ。 柵の 外より 頻りに 汽車 Q 方を靦 く美髯 公の いづれ 御前ら しきが Q

しく.; n 西洋人め くな 土地柄 なるべし。 立派なる 洋館 散見す。 大船に 横須賀 行の 軍人 下り

たるが 乘客は 張增す 計りな り。 隣り 坐りし 岡の 商人 一人し リに關 西の 暴風 語り 相場

を說 けば ふに 腰かけし 文身の 老人 御殿場 Q 料理屋の 亭主と るが 富士 登山の 景況 語る。

西洋人 婦人 草鞋に 登る. H なりな どし きりに 得意の なりし はす 語りに 人の

難儀 をよ そに 見られぬ 私の 性分 かつぎ 出して 少時 も燒 舌り 止めす、 面白き 爺さんな り。 程が

近く なれば 近き Q 撗濱の 大火 乘客 Q ^柄 はす。 之れ 急行 となりた 祌奈川 見な

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止ら す。 夕陽 海に 沈んで 煙波 たる 川の 灣に七 砲臺朧 なり。 何の 祝宴 礎邊の 水樓に 紅燈山

形に つるして 湧き、 沖に 上ぐ 花火 夕闇の 空に なし。 崎の 灯影 長う して 漣漪淸 く、

電燈 煌と して 列車 長き プラット フォ ムに 入れば 吐出す 人波。 下駄の 靴の i.- き。

(明治 三十 九月)

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記る

半日 ある

九月 廿 四日、 日曜日、 空よ 晴れて 暑から. 寒から す。 數學の 宿題 午前の 中に 片付け たれば

午後 半日 思ふ傣 遊ぶべし 定まれば 晝飯待 遠し。 今日は 彼岸に 本堂に 人數多 集りて 尙の稱

Q 聲ぃ つもより 高らかなる など 寺の 內も 今日は 何となく かなり。 線香と 估る.^ 頻りに

小僧 幾度 引きす 墓場 入りつ。 木魚の 音の くた 後に 聞き 朴齒 木履 カラ

つかせて 出立つ。 近邊の 寺々 いづこ 參詣人 多く 花屋の 店頭 黄なる 赤き 蝦夷菊 堆し。 ある

垣の 內を覼 けば 並ぶ 墓碑 苔黑き 中に まだ 生々 しき 土饅頭 つ、 前にぬ かづきて 合掌せ

前後の 三人と 稚き 女の子 一人、 いづれ 身なり しからぬ 白粉 なき IdT 色白し。 墓前

花堆 うして 香煙 しく 塔婆 Q 影、 木の間 もる 日光 あびて あら はなる 白張燈 籠目に 立つな

さまぐ 哀れな りけ る。 上野へ 入れば 往来の 漸くし げく、 ステッキ 引きす 書生の あれば 2

盛裝 せる 御壤樣 坊ちゃん はじめ、 自轉車 はしらして 得意 なる 人、 動物園の 前に 大口 あいて

立つ 舍漢、 乘車 をす \ むる 人力、 イラ シャイ 叫ぶ 茶店 Q 女な 並ぶ 管な り。 パノラマ

館に 例によって 呼ぶ 樂隊の 面. tn さう なれば 例によって 其方 運ぶ。 右手

小高き 岡に 上って 見下せば 木の 問に つに 車馬 老若の 絡緯 たる、 なれ ども Q 額の 淋し さうな

はなし。 杉の 大木の 下に 床几 積み上げ たるに 落葉 や、 積り 鳥の 糞の 白き 下に 小^生

りて 土す 勝ち るな ど雜鬧 Q 中に 幽趣 るは此 公園 の特徵 なるべし。 西鄕像 方へ 行き たれ

ども 書生 Q 多くて うるさければ 引き かへ しパ ノラ 裏手 Q 下る。 、は 稍靜 かなれ

漸く 深く 鐵道 構內の 煤煙 風に ふもうる さし。 踏切 越えて 通り か- - りし 鐵道 馬車に のる。

多くて 坐る 餘地 もなければ 入口に 凭れて 倒れん とする 幾度。 公園 裏にて 下り 小路 入れば

の往來 織る 如く、 壯士 芝居 あれば あり、 輕業 カツ ボレ 浪花 踊、 評判の 江川の 乘に タツ

タ三錢 惜しみ はぬ 方々 に滿 されて 子の 只八ケ まし。 猿に やる どれ 面白き 知らす。

幾度 釣り 損ねて 漸く 得た 尾に 笑輕 傾く 少年 つて ォッカ サンに はなす か。 寫眞

店の 看板 見る 兵隊さん。 鲤に 鉄を投 ぐる Q 子。 凌雲 上人 豆の 如しと 上より 見下し

て蛆の 如しと 嘲りし ありし 否や。 右へ 迥れば 藤棚 G 下に 「御子 衆へ C 產ー錢 から 御座

26

記る

ります」 と聲々 叫ぶ 琉具賨 りの 女の子。 fl: 燈籠 とかの 人形 脇に あり。 中花缺 皿に

いて 赤け れ共買 もな 爺が 煙管 頻りに 吐く。 蓄昔機 音羽屋 の辨天 小僧に して ひの

壯士腕 まくって 耶蘇 敎を 攻擊 する あり。 誓き のお さん 大黑; 大の耳 書く 所。 書きの

さん 「へ 有難う、 もう チラの は御濟 になり ました かな I、 もうありません かな 1。」

有難う これから 當世 白狐 傳を 御覽に 入れる 所な り。 除け 文、 さて 割の 術より

よりで 切る 傳迄十 錢の處 二-一 迄に 勉强 して へる 男の 武者修行め きたるな ど。 ちと 人が 惡ぃ

なれ ども 一切 只に て拜 見した 覿面、 腹に はかに 痛み 出して 一歩 あゆみ 難く なれり。

きべ ンチ かけて 觀音様 祈り 奉る 信心 起す 靈驗の ある 害な しと 顔をしかめながら

づれば 仁王の いつもより 苦し。 世の 雜鬧は はす あるべし。 橋に 出づ。 腹痛

\ 治まる。 ふへ 越して 交番に 百花 園への 尋ね、 向島 上の 砂利 蹴って 行く。 空い Q

間に 曇りて ボッリ ./\顏 にお つれ さした もなければ 急いで h ./\と 行く。

廻りて 側に 料理屋 茶店な 並ぶ 行く。 右手に 荻の 圜と掛 ある を、 これが 百花

內を靦 くに、 どうやら なれば、 待の 車夫に ふに、 百花 はま だすつ 先な り。 倉の

S Q 石垣に、 赤の 溢る、 如きに、 ニ輛の 馬車 出で \ 南へ 馳せ 去りた る、 あれ

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郞の 一家 か、 車上の 男女いた 澄まし顔な るが 先づ 瘤に 觸り ける。 圍の稻 上より 拜し、

まだ 治まらねば 圑子 かじる 氣も なく、 漸く 百花 園への 見付けて 右へ 下り、 溝に 沿うて

まがりくねりの 行く 町ば かり。 傍、 溝の 畔に获 みだれ、 小さき 社の 垣根に 鷄頭 赤き など、

早く 園に 入りた 心地す。

此邊 紺屋 多し。 園に 達すれば 門前に ふ車數 知れす。 清楚 、「春夏秋冬 不斷」 の掛額 もさ

びたり。 入れば 萩先づ 目に 赤く、 立て 並べた る自轉 車お びた^し。 脇の 家に 數多集 ひ、

念佛 Q 聲洋々 たる 何の ひか。 隣に 樂燒の 都鳥な 賣る店 ぁリ。 之れ に續く 二三。 前に

夕顏棚 ありて 下に 酌む 自轉 車乘の 一隊、 見る から 殺風景な り。 一面の 秋草 原。 芒の 蓬々

たる あれば 获の 道に 溢れん とする、 さて 芙蓉の 白き 紅なる、 紫苑、 女郎花、 藤挎、 釣鐘 花、

尾、 鶏頭、 鳳仙花、 水引の さまぐ 唆き 亂れ て、 徑其 間に 通じ、 傍に 何々 稼の 立つな

あり。 中に 細長き あり。 荷葉 半ば 枯れなん として 見る もな きが 秋草の 色に 映りて 面白し。

夏の 花木 あれ 目に 入らす。 しのぶ 塚と 見て 居る 內我を 呼びかける あり。 ふり かへ

れば森 Q 母子と 君な り。 連立って 更に をめ ぐる C 草花に 處々 釣り下げ たる 短冊 旣に 面白

からぬ 見れ ころしの 廣吿. 嘔吐 催す ばかり-なり。 秋草に は束髮 C 美人 聯想す

28

記る

など へながら こ&を 出で たり。 腹痛 漸く 止む。 鐘が 紡績 Q 煙突 後に 聳え、 右に 白き 大學

Q ハウス なるべし、 端艇 を乘り 出す 二三。 樹の隨 道、 花時 ひやら る。 八重

なれ 花なければ 吾に 見分け 難し。 半の 屋根に 止れ る鳶ー 一羽 相對 して さながら 瓦に

れる樣 なる を瓦ぢ ゃ鳥ぢ やと 云ふ內 左なる 嘲る 如く 此方 向きた るに 皆々 どっと ふ。

傍に 並ぶ 柱燈 人造 麝香の 廣吿 なりと 聞きて 嬉しから す。 波頭に 下り立ちて 船に 上る。

より 0 小蒸汽 けた ,^ しき 笛なら ぐれ 餘波舷 ほる 少時。 乘客 間もなく 滿ち

中流に 出で たり。 催の {仝 江に 映りて、 下の 杭に 漣漪 寄す も、 荻の 聲靜 かなりし 昔の

ぬるに 由な く、 番小屋に ンキ塗 Q 廣吿 看板 か& りて 打ち 拂ふ 風流 似合 ふべ くも あら

す。 戸の 渡と 名ば かり 流石に 床し。 堀に 上れば はらく 降り 來るも 場所柄 なれ

面白き 心地 もせら る。 さりと 持たぬ 一同、 たと 張子なら すと 風邪な 引いて 面白

ねば 大急ぎに 門前 迄馳け 付く。 先を爭 ひて 馬車に らんと あせる 狂氣の 如く、 見る 間に

滿員 となりて 馳せ 出せば 友に はぐれて 取り さる、 多し。 來る 馬車 もく 皆滿 員と なりて

もな し。 婦人 連れ なれば 奮發し て漸々 上等に 乘れば 之れ 矢張ギ つみに 呼吸 も出來

ざる 新々 1.」 して 上野へ 着けば 止みと なりけ る。 i 一行と 別れて 山內に 入る。

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人漸々 じて 後れ 歸る もの 疎な り。 ふより 勢よ 馳せ來 馬車の 上に 端坐せ 瀟洒た

面の 貴公子。 たしか 太陽の ロ繪 にて 見た 様な りと ふれば、 さなり 三條君 美の 君よ 返れば

見え ざり ける。 降り出さぬ 間と 急いで 歸れば 木魚の 昔又ボ ン/ \«.,^。

(明治 一二 十二 =0

30

天幕の 破れ から ゆる 砂漠の 签の 星、 駱駝の 鈴の 音が する。 背戸の 田圃の ぬかるみに 映る 星"

歌が 聞え る。 甲板に 立って 帆柱の 尖に 仰ぐ 星、 《K やらが 欠び をす る。

(叨治 111 十二 十月、 ホトト ギス)

毎年 春と 秋と 一度 づ& 先祖 をす るの 我家の 例で ある。 今年の 我が 歸街屮 にとの

の考 へで 少.^ 繰り上げて 八月 某日に する 事と きめて あつたが、 數日來 のしけ 希がない

三日 延びた。 早々 起きて 物置の 二階から 祭壇 下し 拂ひ雜 かけて 組みた てよ

うとす ると、 さて 板が そり かへ つて 居て 中々 思ふ樣 にならぬ 0 やう やくた、 込む。 ii

上は戶 棚から 三寶 をい くつ 下して 々布巾で めて 居られる。 いや 隨分亂 暴な Q 糞ぢ や。

、み も處々 破られた 跡が ある。 、に 黄ばんだ しみ G あるの 鼠の たづら やない

しらんな 獨語を ひながら 傅うて 大方 寳の淸 めも濟 む。 散らした 包紙の 徽奥 いのは

奥の間の 緣へ はふり 出して べん 掃除 をす る。 所から 色々 供物 入れた 叭を 持って くる。

此れに 々水引 かけ 綺麗に はし 揃へ て、 さて 々靑ぃ 紙と 白い 紙と をし いた 三寶 へのせ

る。 あたり 赤と 白と^ 水引の 屑が 茄子の 莖人蔘 葉の 中に ちらばって 居る。 奥の 問から 祭壇

持って来て 床の 屮央へ 壇に すゑ、 神棚から 廚子を 下し 塵を淸 めて 一番 高い 處へ 安置し、

あけて 前へ 祌鏡を 立てる。 左右に 掛けた 树臺 ー對。 Q 壇へ 洗米と 歷とを 純. H

盛った のが 御燒 物の 鲷を はさんで 正しく 並べられる。 大きな 下の 壇へ 色々 な俱 物の 三寶

並べられる。 先づ 裏の 畑の 茄子 冬瓜 小豆 人參 里芋 始め、 井戸 脇の 葡萄 射の 上の 棗、 隣から

うた 梨。 それから 朝市の 大きな 西瓜、 こいつ ごろくして 臺へ 載りに くかった 漸くの せる

と、 ゅ樣へ 向けて るの 不都合 やと 出して 义据ゑ 直す。 こんな 事で とう^ \>晝 飯に

なった。 食事が すんで そこら 片付ける 風呂が わいた から 父上から 順々 にいって からだ を淸め

る。 風呂から 出て 奥の間へ 行く 同の 着替 へが そろへ ある。 なれぬ 緒の 袴の キュ くと

なる 着て 座敷へ 出た。 日影が 緣へ 半分 差し こんで 額が ほてく する 風呂に 入った せゐ

であらう。 姉上が 數々 子供 つれて 来る。 一同 座敷の 片側へ 一列に ならんで 順々 拜が 始まる。

自分 も緣 側へ 出て 新しく 入れた 手水 鉢で 口す" いで 前にぬ かづき、 上げて

拍手 打つ 花瓶の 扇の 花びらが 落ちて 葡萄の 上に とまった。 番御拜 Q 長かった 母上で、

一番 祌樣の 御氣に 召した かと はれる はせい ちゃんの であった。 一順す むと 祭壇の 菓子 下げて

33

子供 等に 頂かせる。 一度 此御頂 うれしがった 出して 頃の 我な つかしく 端坐

父母の 髮の 毛の 白い のが 見える 心細い 樣な氣 がする。 子供 無性に 面. H がって

fa りながら バタく 緣側を 廻る、 小さ いのは 父上の 膝で ひっぱる。 顏を しかめな

がら 父上 笑へば 皆々 ふ。 涼しい 風が 吹いて 來て 榊の ふが サラ くと 鳴り、 扇が 散った。

其內に 勝が 出て 來て 一同 前にす わる。 「どうです かせいち やん は、 祌樣の 前で 出して。

レ御 つゆが こぼれ ますよ」 方で かさの 娃が 小さい のに ォッ キイ させて 居る。

夕日が ふの 岡に かくれて 床が 薄暗くな つたから 御祌燈 をつ 御て らし 上げた。 榊の 影が 大き

壁に うつって 茄子 葡萄が 美しく e やいた。 父上 Q いくさの 話しが 出て 子供 等が 急に お,. つな

しくな つたと 思うたら、 小さい のとせ いちやん 姉上の 膝の 上で はや 寢て しまった。 姉上 等が

ると 御て らしが 消えて 御祌燈 Q. 灯が くと 鳴る。 座敷が しんとして 庭で 轡蟲が 鳴き 出し

た。 居間の 時計が ねむ さう をう つたから 一通り 靈前を 片付けて 床に 入った。 」M 敷で 鼠が

かじる 音が する から 見に 行ったら、 床の 中に 鏡が 薄く くらがりの 屮に 淋しく 光って 居た。

(明治 一一 一十 月、 ホトト ギス)

ーョー

私が 九つの 秋であった、 父上が やめに なって 家族 同鄕 里の 舍へ引 移る 事に なった。

勿論 未だ 東海道 鐵道は 全通して 居らす、 どうしても 横濱 から 祌戶迄 船に 乘ら ねばならぬ。

が、 困った 事に 父上の ひも 揃うた 嫌で 見る ともう 頭痛が すると 云ふ鹽 梅で。 何も

急く 旅で もな しいつ 人力で 五十三次 面白から うと、 トウく 其れと 極って から 彼れ 是れ

果を 車の 上、 親の 膝の 上に 交る 載せられ 面白 やら 可笑し いやら をした 事が る-

惜しい 事に 歳が 歳であった から もし もした 場所 も事實 も、 一昔 程遠き 今日から ふり

つて へて 見る 夢の 様な 取り止め 付かぬ 切々 が、 かすかな 記憶 につな がれて、 廻り 燈籠

の樣に 出て 來る ばかりで。 此んな 風で あるから、 之れ 自分に は覺 えて 居らぬ が撗濱 から 雇った

車夫の 中に 饅頭 形の 检笠を 冠った のがあった さう だ。 合せに 晴天が いて 日よ 照りつ ける

35

秋の 日の 未だ 中々 暑かった であらう。 斜に來 光が 此餞頭 かぶった 車夫の 影法師 乾き 切つ ^8

地面の 白い 上へ うつして、 其れが 左右へ ゆれながら 飛んで 行く のが 譯も なく 子供心に 面白 かつ

たと 見える。 自分 は此 車夫に 椎茸と をつ けた。 それ 影法師の 形が いくらか 似て 居る

つたから である。 街道に 沿うた 並木の 影の 中を此 椎茸が 一一 ヨキく 飛んで 行く のが ドンナに

可笑しかった らう。 朝は此 椎茸が 恐ろしく 長くて、 露に しめった 傍の 草の 大蛇 C 様に うね

つて 行く。 どうかす ると 影が 小川へ 飛込んで 見え なくなつ たと ふと、 不意に ふの 岸の 野菊

中から 出す。 出す かと ふと 一飛に 飛越え 芒の チラ リく して 行く。 なほ

面白 いのは 日が 高くなる につれ 椎茸が 次第に 縮んで、 おしま ひに はもう 椎芽 とも 何とも 分らぬ

ものに なって 石ころ 道の 飛びく がって 行く。 少し 厭氣 味になる 父上に をうた

をせ よのと ねだって 居る 內に 日が 西に 傾く。 しかし 今度 朝の 様な 工合に 行かぬ。 大體が 西

向いて 行く ので あるから、 椎茸 車の 脇へ 出したり 左へ 出したり。 どうかす ると. R 分の

の上 へ來るの でキャッ,^と大騷ぎをす^o。 こんな チヤ 膝へ せた 父上 大概な 事で はな

かったら しいが、 椎萍も トン 目に つた もの だ。 椎茸 少々 宜しから 事が あって 途中から

職に なった はよ かった が、 後任 0 爺さんが .ドー 椎サ坏 でなかった ので チャン 一通りの 不平

でない。 これに 流石の 兩親も 持て したと ふ。 (明治 一一 一士 一一 九月、 ホトト ギス)

十日 動物 敎窒の 窓の 通る 洗ったら しい 色々 骸骨が ばらく に^へ 入れて 千して

る。 G 蠅がー 一三 止って 寒さう 羽根 動かして 居る。

十一 垣に ぶら 下って 居た 南瓜が 何時の間にか 垂れ 落ちて 水引の 花へ をす ゑて 居る。 我等

祖先の I ンは 如何に H ライ 者であった かと を考へ ると 隣の 車井戸の 屋根で ァホ

鴉が 鳴いた。

十二 傘を竪 にさす。 横に 降る。

十三 豆腐屋が 來た。 聲の 波の 形が はぬ Q 新米と いふ 事が 分る。

十四日 雪隱で プラス、 マイナスと 事を考 へる。

十五 今日の やうな しめつ ぼい 氣には Q ひが 籠って をる 樣に思 ふ。 横にな つて

日理窮

んで 居る 眼險が 重くな つて 吹から 大蛇が 出た。

十六 涼しい さえく した だ。 まだ 光の 弱い 太陽 見詰めた 金の 黑點も 見えない。

^堝の 底に 熔けた 白金の 様な をして そして 蟒蜓の 眼の 様に クル,/ \ 廻る 様に 見える。 眩しく

なって 庭の 草へ 移す 大きな 黄色の 斑點 がいくつ も兑 える。 色が さま/ に變 りながら 吸の

方へ 動いて 行く。 (明治 11 十一 一一 十月、 * トト ギス)

39

役の 姉上が 来て 西の 上り 端で 話して 居たら 耍太 郞が臺 所の 方から 自分 呼んで 裏へ 嗨を 取り

行かぬ かと ふ。 自分 未だ 一度 行った 事がない 病後の 事で あるから 思うて 座敷で 書見

をし 居る 父上 もよう 御座いま しょか 聞く 行く はよ さして 行け との 事で

つたから、 帽を かぶって わるい G 蝙蝠傘 持って 裏門へ 行く と、 耍太郞 はもう こしら

待って 居た。 「別 役の 様が こな ひだから 連れて行て くれい ひよりました がのう c」 「さう

かそれ では 呼んで 來ぃ」 とて 下女 やった。 間もなく たから 立って 裏門 出た。 バックが

いて 足下から 飛び出した。 「いくら 汚れても よい やうに を着換 へて 来たね。」 無言で 一一

11 して 居る。 足に 尻の 切れた 草履 はいて 居る。 小川 渡って 家の 方へ 出る。 あち

ちに 稻を 刈って 居る。 畔に 刈穏を 積み上げて 扱いて 居る 女の 赤い 帶も あちらこちらに 見える。

きづ

挺が 足元から ついと 立って ふの 小石 Q とまって 目玉 をぐ る/ \- とま はして Q 小石

ぶ。 溝に 泥鰌が 沈んで 水が 濁った。 屋敷 0 裏手へ 廻る。 自分と 精と 一町ば かり をつ いて

行く。 0 山へ 雲の 峯が 出て 新築の 校の 屋根が きらくして 居る 涼しい。 郎が手

上げた から 止って 道に しゃがん だ" 久萬 川の 土手に 沿うた Q 二番 があって 中に

嶋が 居る 見える。 IV- 斜に 下向け てし きりに ねらって 居る。 .R 息を殺して 見て ると

頭の さ,/ <\ 昔が る。 挺が 傘に とまって 居た のが 外の とんぼと 噙ひ 合って 溝へ

さう にして ぶいと 別れた。 溝から Q 太陽の 反射で 額が ほてる 樣な。 耍太郞 ねら ひながら

廻って 居る。 どうも 居ぬ らしい。 後の方で I 者が あるから ふり かへ ると、

五六 0 畔道 Q 分れた 處の 石橋 Q 上に 馬が 立って 居る。 後に ついて 居る Q 十五 六の 色の

手拭 冠った 女の子であった。 どっちへ 行かう かと 風で 止って 居る と、 女の子

をく f つて 前へ はって 叉ダ I ひながら 屋敷の 引いて 行った。 はやつ

見えぬ らしい。 耍太郞 少し だれ 味で 高く 上げて 振る バタ. ('と 飛び出して

越して 見え なくなった。 耍太郞 さす 通りに グサ くと 下駄の 込む 畔を傳 つて 土手へ 上る

と、, 精の 足元から 一羽 飛び出して 高く 上った。 二三 度大 廻り をして 東の 方へ 下りた。

41

處へ 下りました Q うし。」 「ァ ソコに 木が ある ー。 Q 西の方に 桑が ある だら う。 あの

あたりの だ。」 耍太 郞は默 つて 下りて 行った。 堤に 一面す.^ 茨が しげって 物に

ひっか \ る。 どう 勘逮 ひした Q 耍太郞 はとんで もない 方へ 進んで 居る。 聲を 掛けようかと 思つ

たが 驚かして はならぬ 思うて へて 居る 果然 嗨は 立った。 太郞は 舌打ち をした

風で あつたが 此方 見て 高く 笑うた。 そして 並んだ 木蔭へ 足を投 出して 坐って 吾等 招いた。

「ド, 'ダ ネ。 一服 やって 緣起を 直して は。 煙草 やろ か。」 「ャ ありが ございます II 0

昨日 は赵の 小さい 網で 取り ましたが のうし。」 今に 見せる 風で。

野菊が 獨り 亂れて 居る。 「精 ド— 面白い c」 「あつい」 ひつ、 藁帽 をぬ いで 筒袖で

撫でた。 「サ I そろく 行き ませう 。モット 下へ 行って ましよ c」 小津 神社 Q 裏から ふち

通って 下へ 下へ 行く。 處々 殼を箕 であ ふって 居る。 鷄は 喜んで あっち こち こぼれた ひろ

つて 居る。 子供が 流で 釣って 居る。 「鲋 か。」 「ゥ ン。」 精の 友達ら しい。 いつの 間に

太郞が 見え なくなつ たと 思うて 居る 遙か向 ふの 村の 影から 招いて 居る。 ふき/. \ ついて

行った。 道の 上で 稻を 扱いて 居る。 「御免なさいよ。」 「アイ 邪魔で ございます。」 實際 邪魔で

あるので。 耍太郞 見る ふの Q 如何にも 奇妙な 付で Q 握って 走って 居る。

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すると 精が 「居る/ \ 太郞が あんなに 走り出したら 鴨が 居る」 ふ。 成程 太郞は

心に 田の 中の 點を 凝視め て其點 のま はり 小股に 走りながら はって 居る。 網の 竿 をのば

たと ふと 急に 足. 早めて 投げた。 いものが 立つ ふと 網に \ つた。 バタ. (- して

る。 耍太郞 走る。 走る。 綺麗な 嶋だ。 ドレく 急いで 受取って 握って バタ

バタ さす。 「綺麗な 鳥よ、 綺麗 ヤノ ー。」 「運し ちゃ 厭で ございま すよ。」 r 力。」

殺さない 肉が 落ちる ふので 耍太郞 鳥の 脇腹 をつ まむ 首が ぐたり となった。 脆い もの

で。 これが 手始めで それから 取る はく、 少し 0 間に 羽、 外に 胸黑を 一羽 取った。 近頃

面白かった はない。 「今晩. 鴨の 化が 來る ぜ。」 「来たら 脇腹- VJ つまんで やら あ。」

(明治 三十 九月)

明後日 自分の 誕生日。 久々 國にゐ るから 祝の 获を食 ひに 歸れ との 察であった。 今日は

氣も よし、 二三 前の 様に いやな もない。 丁度 あると たので 歸る 事と 定める。 朝飯の

勘定 こしら へる にと 竹さん 付ける。 こんど はいつ 御出で かと 例の 幡多 訛りで ふ。

れの事 だからい だか わからん 云った 樣な事 云うて ザブ くと すまし、 Q ザット 片付

けて 革飽へ 入れる Q 入れ、 これでよ しと アイ オリ ンを 出して second position の處を 開け

てへ 調の 「アンダンテ」 やる。 1st とちが つて 何處 かに があって よい。 綿 入に 着かへ

くるしい のに 裾が 開きたがって 仕方がない。 側へ 日が くさして 何だか 逆上す る。 鼻の

合が だが、 昨日の 生で 風で 引き やしなかった かしらん。 東の 間で 御ば あさんの 聲で菊

さん 呼んで ゐる。 定勝を 尋ねて いとい ひつけて 居る。 着物の 寸法 取らねば ならん G

へが

ら何處 へいった Q かと ブツく 間もなく 尾は歸 つたが、 安田に も學 校に 居ません ふの

で、 御ば あさん 又ブッ く。 其內定 勝さん が歸 つた。 着物の 寸法 取らねば ならぬ 何處へ 行つ

居た か。 忙しい Q にどん なに 世話 を燒 かすか 知れぬ ごな し。 つて 来たと 宅に 片時

るで もな し。 おまけに 世話ば かり かして …… もうさう 時々 つて るに 及ばぬ …… カン

カン。 誰れ か餘 所の 伯母さんが 來て寸 取って 居る らしい。 勘定 持って来た。 十五 圓で 御釣り

が三圓 なにがし。 中の 一枚 はこれ 窬麥を おごらう 竹さん の帶の 間へ。 殘りは 巾着へ、

チヤ くと 冬の 音な り。 今日は 少し 早くと 飯が 来て、 これで しばらくと ふ樣な

合うて 手早く すます。 しばらく すると 二階で 「汽船が 見えました」 竹の 聲。 奥から

「汽船が 見えました。 今日 御歸 りで ざいます さうな」 八重が 來る。 これ はちと 話の 順序

がちが つて 居る 樣だ。 料理人 篠村 宇三郎、 かご Q 青海苔 持って来て、 「これ 今年 始めて 取れ

ましたので 上げます。 尊父 様へ よろしく」 と改 つたる 御挨 接で。 其內 汽船の 碇を 下す 音が

えて 汽笛 聲。 「サァ そろく 出掛けよ うか。」 「御 荷物 はこれ 丈け で。.」 r ヤコ レハ 私が 持って

行かう。 サョ ラ。」 「又 御早うに …… 。」 勝さん 今日の 船で 歸校 するとて、 背嚢へ 毛布

付けて 居る。 今日は 船が 餘程 いつもより 西へ ついて 居る。 處の擧 だか 行軍に たらしい。

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生徒が 濱邊に 大勢 居る。 女生の 海老茶 袴が 0 立って 見える。 船に 0 るの だか 見送り だか 二十 前後

蝶々 大勢 居る。 端艇へ 飛びの つて しゃがんで をす ると 波の 上で 開く。 濱や兑 ると まぶし

い。 甲板へ 上って ィに 上等 あいて 居る かと ふと あいて 居る との 事、 荷物と 惰を 投げ込ん

で濱を 見る と、 端艇に のり 移った マントの 一行 五六 人、 さきの 蝶々 髭の 連中と サョ I ナラ とい

つて 居る のが 聞え る。 蠶種撿 査の御 役人が るの だな と合點 がいった。 宿の さん も、 二階で

つた づれの ハイカラ も來 る。 Q 恐ろしく 膨れた、 大きな どてら 着た 人相の よくない 男が

甲板 Q 蓆へ をし めて ィの賫 りに 來た 菓子 食って ゐる。 ひに 坐った H: いぢい

んと 相撲の をして 居る。 或は 相撲 かも 知れぬ が髮は 二月 前に 刈った 風で ある。 隣に

五六 人、 若い 二人 交って 居る。 機關 至に は顏の 赤い 人の ささうな のが 航海日誌と

ひさうな もの 書いて 居る。 \ 色の 靑ぃ 恐ろしく せた 束髮の 三十 位の つれた 例の

生白い ハイカラが て機關 長と 挨拨 をして 居た が、 はとう- (-此 {ま の寢 臺をト :! した。 何者

らう。 黑紋付 ちらと 見たら 蔦の であった。 宿の 二階から 毎日 見下して 御な じみの. 種撿 茶の

先生 舳の方 炊事場 横へ どって 大將 らしき 白い 法帖 0 もの を廣げ 行と

して 居る。 やっと 出帆した のが 十二時 頃。 甲板 はどう 風が 寒い。 鱸の 處を 見る と定 さんが

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りへ

竿へ もたれて 濱の方 見ながら 口笛 吹いて 居る から そこ いって 話しかける。 第一 一中 舉の 模様

など 聞いて 居る 船員が 出帆 下しに 來た。 らしき 男が 艫へ 大きな 置いた Q で窮

だ。 山々 枯の色 は實に 美しい 東の 山ば かり 兑て ゐる內 はや 島迄來 て、 久禮 はと 見た

共何處 とも 見當 がっかぬ。 釣船が 追々 沖から 上げて つて 來る。 甲板 下駄で 蹴りな

ら、 昨日 稽古した r ェコ I」 ふの ふ。 室へ 入らう とすると いつの 間に 商人 體の男 一人

連れら しき 一人 窒へ 一杯に なって 風俗 畫報か 見て るので、 甲板 あちこち。 機關長

から ハイカラ 先生の 鼠色 ツボンが 片足 出て、 鏡に 女の 顏が 映って 見える。 煙突の 脇へ 子供

負った 婆さんと おばさん とが 欄干に もたれて 立って、 馬の 船底から 見て ゐる顏 淋し さう

な。 被へ 出る 西日が li 一り つけて、 蝶々 結った 料理屋 者ら しいの がー 欄へ もたれて

やり 見て 居る。 會食 室の 戶が 開いて るから ちらと 13- たら、 三十 位の 意氣な 女と をのんで

男が あつたが、 はよ く兒 えなかった。 左舷へ つて 室へ はいって 飽から 引つ

り. おして 攔へ もたれて 高く 音讀す ると、 艫で 誰れ 浮かれ やり 出した ので 皆が 其方 る。

ィに マッチ 貰って 煙草 ふ。 吸殼を 落す 船腹に 引付いて 落ちて すぐ 見えな くな. る。

の燈臺 小さく 見える。 西 見る と祌 島が 夕日 背に して 眞黑 に^ 上って 見える。 横波 Q

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こして ると 遠い 山の頂に 白い ものが 見える。 ボ— ィが 御茶 上げ ましよ 云うて たか

ら窒へ はいると、 Q 商人 あわて-席 を讓 つて r ゾコ チラへ」 ふ。 をのんで 粗末な

ビスケット 一つ 三つ かじる。 毛布 かけて ねたま、 出して ビス ケッ トを 取って 食って

居る。 スグ又 1: 出る。 鴨が 澤山 ついて 居て、 釣船もボッ-^-見ぇる。 大分 浦戶に 近よ つた。

突の 下で 立ちながら めし 食って ゐる 男が ある。 例の ィが cabiu から 如何 はしい 寫眞を

して 來て 見せびらかしながら 會食窒 はいった ふと、 盛に ふ聲が 洩れて 来た。 がない

龍王の 下の 岩に 躍る 白浪の 壯觀も 見えぬ。 釣船 そろく 張って 歸り 支度 をして ゐる。

の礁を 廻る 時から 右舷へ 出て 崎の 濱を 見る。 夏と はちがつて 人影 見えぬ 和樂 園の 前に 釣を垂

れて 居る 中折帽の 男が ある。 雜喉 場の 前に 日本式の 小さい 前が 一艘つ いて、 汀に

でも 拾って 居る 樣子。 馬に つて 動かして 居る 女の 腕に 西日が さして A 見える。 どうや

夏の 様に はれる。 社の 通った 胸が 痒かった。 島の あたり ははら かた 釣りが

夥しい が、 女子供が 大半 占めて 居る。 崎の 渡し Q 方に は、 船の 旗が 二つ 見えて、 川の

戶は 空しく 締められて 之れ 悲しい。 孕の 山に 紅葉が 見えて 美しい。 碇を 下して^ 端艇へ 移る。

例の ハイカラ は濱行 Q 船への る。 自分 は蠶種 撿査の 先生方の 借り切り 船へ 厄介に なった。

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崎の 人から 稻荷 新地の 醜業婦へ 手紙 託された とか 云って、 それ 出して 見せびらかして 居る。

得月樓の前へ船をっけ^111轉車を引上げる若者がぁる。 上と 門前と 女が 立って うな いて 居る。

通る。 之れ 等が 煩惱 0 だら う。 松が 端から ふ。 下町 昨日の 禮の名 续で娠 かな

追手 小さい 花臺を かいた 子供 連が ねって 行く。 西洋の 婦人が ふから 來て 之れ とすれ ちがつ

た。 牧牛 社の 迄く ると 日が 入り か、 つて、 川端の 梗の 霜枯の 色が 實に 美しい。 阪橋を 越す

見る と、 女學 生が 大勢 立って ると 思った が、 其れ 海老茶 色の 干して あるので あつ

た。 (明治 一一 一十 十一月)

しきり いのが 西の方から 鳴って 來て、 黑く 枯れた 紅葉 机の 前の ガラス 障子に なぐり

けて 裏り >v」 倒す 様に して 過ぎ去った。 障子 心から 寒さうな 身慄 をした。 丁度

哀れ しらぬ 征服者が あとに して 行く 戰者 最後の 息で あるかの 樣な 悲し て,^

る。 之れ 嘲る 魔の 聲も閒 える 樣な氣 がする。 何處の 深山から 出て 何處の 幽谷に 消え去る とも

知れぬ 此の 壤の祌 は、 恰も 其の 主宰者た 「時」 仕事 もどかし がって 居る かの 様に、 あら

ゆる Q 乾枯 させ 粉碎 せんと あせって 居る。

火鉢に 塊の 炭が 燃え して、 柔ぃ 白い 上の 藁灰の 壓カ にたへ かねて もせす 落ち込

んで しまった。 此時 再び 動かして 過ぎ去る 風の 行へ ガラス 越しに 見送った 時、 何處 とも

れす吹 入った 冷い 空氣が 膝頭から 胸に 浸み 通る を覺 えた。 此時我 裏道 西 向いて ョボ くと

一人の 老翁 認めた。 乞食で あらう。 人の 多様な 過去の 生活 はす かの 様な はぎの

褸は祜 木の 樣な臂 包み かねて 居る。 我が家の 來て立 止った。 そして 杖に すがった 辛う

かにんだ 猫背 を延 して 前面に 何物 求む 樣に顏 上げた。 窪んだ 眼に 將に沒 せんとす

落ちて、 賴冠 りした 手拭の 破れから 出た 一束の 白髮が 風に 逆立って 見える。 再び ョボ くと

出す と、 しきり G 風が 驀地に 道の 捲いて 老翁 包んだ 深き 空想 起した。

して 此の 哀れなる 垂死の 人の 生涯 夢み 時、 恰も 人の 今の 境遇が 余の 未来 はして 居て、

el 身が 翁の 前身で ある 様な 感じが した。.

は必す 希望 抱いて 生れ、 希望の 力に よって 生きて 來た であらう。 もな ほ此 風に 吹き

様な 何等か 希望 追う てゐ るで あるまい か。 そして 此の 果敢ない

として 幾度 墓の 閬に 躓いて 居る ので あるまい か。 凡そ 何が はかない 云っても、 浮世の

胸の 奥底に 潜んだ 長いく 年月 重ねて 終に 人の 冷い 亡骸と 共に 葬られて しまって、 かつ

光に ふれ すに 消えて しま 希望 はかない Q あらう G

浮世の 如何なる 眼で 見る であらう か。 各自の 望み ふに G ない 世人 は、 たまに

萎びた 掌に 一片の 銅貨 落す はあって も、 恐らく それ 自分 C 心の中の 慈善箱に 投げ 5

るに 過ぎぬ であらう。 そして 特別の 同情 以て 見て ゐる 余に さへ も、 此の 何處の 何人と

れぬ 人の 記憶が 長く 止まって 居ようと はれぬ。

多分 した あらう。 そして 過ぎ去った 青春の 幾何の まり 霜夜 石の 床に

すで あらう か。

多分 立てた あらう。 そして 幾何の 效某を 墓の 下に 责さ うとして るので あらう

様な 取り止めのない 妄想に 耽って 居る 間に、 老人の 淋しい は何處 ともなく 消え去った。

然向 ふの 曲り角から 愉快な 子供の 笑聲が 起って 圍の肅 破った。 恰も 老翁の 過去の 喜の

が、 こ、 一時 反響して 居る かの 如く。 (明治 1 一十 十二月)

52

やち

校の 晝の 休みに 赤門 前の 友の 下宿の 二階に ねころんで、 風の ない 小春 日の かさ 貪る のが

Q 頃の 自分に つの. 日課の 様になって 居た。 つて 下宿の 帳場に 坐って いつも, 同じ

長い 煙管 ふす ベて 居る 主婦と もガラ 障子 越しの 馴染に なって、 友の 居る 居ない にか i

はらす 自由に 階段 上る 許されて 居た。

こ、 一階から 見る 眞砂町 何とか 館の 廊下 はこぶ 下女が 見える。 狭い 平庭で

本。 猫が よく 之れ を傳 うて 隣の 屋根に 上る ので ある。 庭へ 時々 近邊の 子供が 鬼ごっこ をし

ながら 入して 來ては 焚の 婆さんに 叱られて 居る。 多く 小さい 男の子で あるが、 中に いつも

五六の、 赤ん坊 背負った 女の子が 交って 居る。 そして 大きい 目から 何から よく 死んだ 針に

居る ので、 あれ は何處 0 かと 友に 尋ねて 見た 事が ある。 友の 知って 居る 丈で 隣の 小さ

下宿の 娘で、 父なる 今年 七十 近い 爺さんで はやつ 三十 だとの 事であった。 雪ち

やん 云った。

自分 小石 川へ 持つ 事に なって、 しばらく Q 0 下宿へ 疎くな つて たが、 悲し

事情の 爲に再 をた . -んで 下宿 をし なければ ならぬ 事に なつ 時、 丁度 隣の 下宿の

1 一階が あいて 居る との 事で 計らす 此雪 ちゃんの 宅に 机を据 ゑる 事に なった。

こ、 世話になつ たのが 彼是 半年。 敢て 短い 日子ではなかった が、 かう 事に 極めて 球い

自分に は此 家の 家庭 Q 過去 現在に ついて 知り 得られた 至って 僅で、 叉强 ひて 知り 度い

もしなかった。 が、 主婦が 潟の 人で ある 事、 主人 はもと 士族で 先妻に 迄あった 事、 そして

先妻が なくなった あと 其れ 下女で あった 今の 主婦 入れた 事な 主婦 自身 口から 知つ

僅な 事實の 主なる 部分であった。 しかし ちゃんが 主婦の 實子か 否と 聞き した。

主婦が 娘に すると 先達て 生れた 妹の ちゃんに すると 間に 何のち ひも 自分に 認め

られ なかった 云へ。

主婦 親切で あつたが、 色の 蒼白い、 眉の 間に 始終 管な 影が ちらついて、 そして 時々 工合

が惡 いと 云って 梯子 上り下り Q 苦し さうな 事が あり、 力無い をす る處 など 見る 或は

54

やち

事が あって 友に 計った が、 家に 數年 前から 泊って 居て、 殆んど 內同樣 になって 居る

科の 男が あって 其れが 一向 引越し もしない から 見る とまさ かさう では あるまい ふので、

別氣 にも 止めなかった ので ある。 雪ち やん も此 色の 蒼白い そして 脊の すらりと した 處は 主婦に

居て、 手水の 汲む とて 井戶繩 にす がる 細い 見る 何だかい たくしく はれ、

散歩に 出掛ける 途中、 使 ら歸 つて るの 會ふ時 御辭儀 をし 自分 見て 微笑す 淋し

さな どを考 へ、 此兒に は何處 にか 病氣 でも 潜んで ゐる ではない かと 云ふ氣 がして 居た。 妹に

てゐると云ふのがハ^^"此感じを深くしたのでぁらぅ。それに 拘ら. f 雪ち やん は壯 健で 至って

氣の よい 子であった。 ちゃんが かい たづら でもした 時に 叱りつ ける はどうして 此細 いかよ

わい 咽から 出る のかと 思ふ樣 で、 使で ひつけら る,^ 飛鳥の 樣に 飛んで 出て 疾風の

く歸 つて 來る。 かう 性質の であるか、 ちゃんの 友達 多く 自分より 年下 Q 男の子で あつ

た。 隣家に 同年輩の 子供 は隨 分ないでも なかった のに 之れ 等と 鬼に 遊ばなかった。 何故

らうと 考へ 見た もあった。 多く 小官 吏であった ので ある。

日の 事、 晝の 休みに つて 來て 二階へ 上らう とした 時、 階段に 凭れて うつ ふしに なって 居た-

「ド, !ン タノ。」 聞いた 返事がなかった から 其儘驅 上る 主婦が 晝釵を 持って 上って 來た。

55

ちゃん もつ いて 來て 入り口の 柱へ もたれ 浮かぬ顔で ンャリ して 居る。 0 ふちが 少し 赤い。

丁度 机の 上に 昨夕 買って た新聲 があった から T チャン 。之れ 御覽。 綺麗な

るよ,」 云うたら 返事はなくて 悲しげに 微笑した。 「ド 1 'モ まだ 孩兒で …… 主婦が 云った。

悲しげ 微笑 未だに 忘れる 事が 出来ない。

义或 日の 事であった。 隣室の 科の 男が ちゃんに 命じて づて來 さして 二人で 食って

た。 C 一, § やりながら 聞く ともなし 二人の 對話を 聞いて 居たら、 ちゃんの 聲で 「…

…角の 店の 食った の。 そり ホン 二お いしいの よ。 ォソ ラク」 云った。 此ォソ ラタが 甲走

つた であった ので、 自分 はふと 立てる と、 0 聲で 「ォソ ラタって そり 何の だ。 誰に

習った のか」 輕く笑 ひながら ふ。 あと はくす ぐられ 樣な雪 ちゃんの 笑聲 がしば らく 二階

響き渡った。

自分が 暑中休暇で 歸省 する 五日 前、 夕飯 持って来た 主婦が 「わたし これから 出ます

使 はあり ませぬ か」 との 前置 をお いての はす 語りに、 雪ち やん はどう かして 主婦に 叱ら

れ、 傣家を 出て すべ て歸 つて 来ぬ これから 心當 りへ 尋ねに 行かねば ならぬ との 事であった。

親類 をば さんに つれられて つて 来たとば かり、 上の 事情 更に 知る 事が 出來 なかつ

56

行李 積んで 主人に つげ 車へ 上って 見る と、 二階に ちゃんが 立って 居て ボン

リさを 眺めて 居た。 國へ歸 つて 得て 一年 休舉 する 事に なり、 友に 託して 荷物 親類へ 預け

てし まひ、 しばらくしての 友の 手紙に ちゃんの 他へ 讓り 渡し、 主人 は寺番 に、 雪ち やん

醫學士 家へ 小間使に 上った が、 主婦に して 凡て 消息 知る 事が 出來 ぬとの 事であった。

科の は相變 らす此 家の 二階の 同じ 室に 居る 見えて、 讀の聲 友の 下宿の 二階に えて

さう である。

ちゃんと 家庭に 就いて 誌すべき 之れ 丈で ある。 寧ろ 長々 しい、 つまらぬ 叙事 を讀ん

幾分 かの 興味 を感す 人が あれば、 それ 恐らく 隣の 下宿に 居た 位な もので あらう。

(明治 一二 十四 年)

もう 何年 前になる 出せぬ 日は覺 えて 居る。 暮も おし 詰った 廿 六日の 晚、 下女

れて下 摩利支天の 日へ 出掛けた。 過に つて 來て、 からお みやげの 鍔と 燒栗を 出し

余の を讀ん 居る 机の 隅へ そっとの せて、 便所へ つたが やがて 出て 來て 蒼い をし

机の 側へ 坐る 同時に 急に をして 吐いた。 驚いた のは當 人ば かりで はない、 余の

全く 血の 氣が 無くなった 0 見て、 層氣を 落した 此れ あとで 話した。

翌る日 下女が 藥取 りから ると 急に くれと 出した。 此邊は 物騒で、 使に 出る

いやな 惡戲 をされ ますので、 どうも 恐ろしくて 不氣 味で 勤まり ませぬ 妙な ふ。 しかし

通りの 病人 をか& 急に 歸られ 途方に くれる。 せめて 代りの 人の ある 辛抱

して くれと、 よしや まだ 一介の 書生に しろ、 鬼に 一家の主 人が 泣かぬ ばかりに 頼んだ ので、

栗闥

はどう やら 止ったら しかった が、 翌日 は國 許の 親が 大病と 云ふ譯 でとう く歸 つてし

ふ。 取に 來た 車屋の 婆さんに 賴ん で、 何でもよ いからと 桂庵から 連れて来て もらった のが

女であった。 合せと 此れが 氣立 Q やさしい 正直 もので、 尤も 少し ぼんやりして 居て、

人に 化ける Q だとい ふやうな 信じて 居た が、 兎に角 忠實に 病人の 看護 もし、 叱られても

立てす、 そして 時に しくじり もやった。 手水 敷の 中で 落して 洪水 起したり、

燧の お下り 入れて て蒲團 から まで 程の 穴き こしら へた もあった。 それに X

はらす 今に 到る 迄此美 代に する 感謝の念 薄らがぬ。

病人 Q 容體は 善い とも いと もっかぬ うちに は容捨 なく 暮れて しま ふ。 新年 を迎へ 用意

しなければ ならぬ が、 買って どうす もの やら わからぬ。 それでも 代が 病人の 指圖を 聞い

其れに 自分の 意見 交ぜて 忙し さう 働いて 居た。 大晦日の 夜の 十二時 過、 障子の あんま

りひ どく 破れて 居る のに 氣が 付いて、 外套の 頭巾 ひっかぶり、 一枚 さげて 町へ 厘の

ひに 行ったり した。 は此夜 三時 結び ItSI こしら へて 居た。

世間 目出度い 正月に なって、 暖ぃ天 氣が鑌 く。 病人 少し づ\ よくなる。 風の 無い 日は緣

側の 日向へ 出て 來て、 紙の をい くつと なく こしら へて 見たり、 祕藏の 人形の 着物 縫うて 2^

つたり、 曇った 寒い 床の 中で r 黑髮」 を彈く 位に なった。 そして 時々 心細い 愚痴つ ぼい

云って 余と 困らせる。 頃もう 身重に なって 居た ので、 この 五月に 產と云

大難 ひかへ 居る。 おまけに 十九の 大厄 だと ふ。 代が 宿 入りの 夜な ど、 木枯の 音に まじ

隣, M 淋しい 寢息を 聞きながら 机の 前に 坐って、 ラム プを 見つめた ま、、 長い 息をする こと

あった。 妻は醫 者の 間に合 ひの 休め をす つかり 信じて、 全く 一時的な 管の 出血で あつたと

つて :I5 たらしい。 さぅでなぃと信じたくなかった^:でぁらぅ。 それでも 何處 にか 不安な 念が 潜ん

居る と兒 えて、 時々 ほんとうの 肺病 だって、 なほらない 極った はない C でせ うね」 とこ

んな事 をき いた ある。 「あなた、 かくして 居る でせ う、 さう だ、 あなた さう

せう」 とうる さく 聞きながら、 余の 色を讀 まう とする、 祈る やうな 氣遣 はしげ な服づ かひ

見る Q 苦しい から 「馬鹿な、 そんな はない 云ったら ない」 邪慳な 返事で 打消して やる。

それでも 時は滿 足す 事が 出來 たやう であった。

氣は少 しづ よい。 二月 C 初に 風呂に 入る、 髮も結 ふやう になった。 車屋の 婆さんな

「もう スッ カリ 全快 ださう で」 と、 りで きめてし まって、 そっと 懐から 勘定書 して

「どうも 大變 に、 早く 全快で」 ふ。 者の 所へ 行って くと、 善い とも 惡ぃ とも はす-

60

栗圃

「なにしろ 丁度 御姙娠 中です からね、 五月が 餘程 御大 事です よ」 心細い ふ。

それに も拘ら す少 しづ、 よい。 月の 何日、 風の ない 暖ぃ 日、 者の 許可 得た から 植物園へ

連れて行って やる ふと 大變に 喜んだ。 出掛ける となって 庭へ 下りる と、 髮が あんまり ひどい

から 一寸 撫で付ける 待って 頂戴と ふ。 懐手 をして 緣へ 腰掛けて 淋しい 見廻 はす。 去年

の枯 菊が 引かれた 儘で、 あはれ 朽ちて 居る、 それに 千代紙の 切れ 引掛 つて 風の ない

に、 寒さう に顫 へて 居る。 手水 鉢の G Q 枝に 二輪ば かり 滿 開した のが ある。 近付いて よく

見る 作り 花が くっつけ てあつた。 大方 病人の たづら らしい。 茶の間の 障子の ガラス 越しに

いて 見る と、 鏡臺の 前へ 坐って 解かした 髮を 握って ばらり 下げ、 をつ かって 居る。 一寸

撫でつ ける のかと 思ったら 自分で 新たに 卷き 直す 見える。 よせば よいのに、 早くし ないかと々 t.^

立て、 おいて、 座敷 c: 方へ つて、 横にな つて 今朝 見た 新聞 をの ぞく。 早くし ないかと 大聲で

促す。 そんなに 急き立て ると、 なほ 出來 やしない わと ふ。 つて 所の はって 門へ 出て

見た。 往來 Q 人が じろ 見て 通る から 仕方なし 歩き 出す。 町ば かりぶ らく 歩いて 振り返

未だ 出て 來ぬ から、 引返して もと 來た 通り 所の 横から 緣側 はって いて 見る と、

妻が 年甲斐 もな 泣き伏して 居る 代が なだめて 居る。 あんまり だと ふ。 一人で 何處 へで 2

もい らっしゃ いと ふ。 まあ もと 代が すかしな だめて、 やっと 出掛ける 事になる。 實に

好い 天氣 だ。 「人 心が 蒸發 して 霞に なり さうな だね」 云ったら、 一間ば かり 雪駄

引きす りながら、 大儀 さう について 來た妻 は、 ヱ、 と氣の 無い 返事 をして 無理に こしら

る。 此時 始めて 氣が 付いた が、 成程 腹の 帶の 所が 人並より 大分 大きい。 あるき 方が 餘程變 だ。

でも 當人 は平氣 でく つついて 來る。 代と 二人で よこせば よかった ひながら、 首で 歩調

早める。 植物園の ひって 直ぐに いたらく 上って 左に折れる。 かな 日光が

園に 一杯に なって、 花も綠 もない 地盤 はさながら 眠った やうで ある。 {jPi 塗りが キラ- -

する やうで 前に 二三 人懷手 をして 窓から を視く 人影が 見える ばかり、 噴水 出て 居ぬ。 睡蓮

もま だつ めたい c: 底に 夏の 雲の 持って 居る。 溫窒の 中から ガク /\ 下駄の 音を立て、 *

田舍の 婆さん 達が 人、 狐に つま、 れた 樣な顏 をして 出て 来る。 之と 入れち がって

る。 活力 Q ちた、 しめつ ぼい 埶ー帶 { 仝氣が 鼻の から 腦を襲 ふ。 椰子の 樹ゃ琉 球の 芭蕉な どが

今少し 延びたら、 屋根 どうす 積り だら うとい つも ふので あるが、 今日 もさう ふ。 瓜哇

國には 肺病が 呰無 だと 誰れ かの 云った 出す。 濃綠に 朱の 斑點の 入った 草の葉

いぢって 居る から 「オイ 止せ、 かも 知れない」 云ったら、 慌て、 放して、 いやな をして

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栗圑

指先 見つめて 一寸 いで 見る。 左右の 廻廊に は處々 赤い 花が いて、 中から のんき さうな

の顏も あちこちに 見える。 はなんだ か氣 分が くな つたと ふ。 顔色 大して くもない。

溫ぃ處 ひった めだら う。 早く 外へ 出た 方が よい、 おれ はも 少し 見て 行く からと 云った

ら、 一寸 ためらつ たが、 おとなしく 出て 行った。 紅い だけ 見て すぐ 出る 積り 居たら、 人と

との 間へ はさまって、 ちょっと 出損なって、 やっと 出て 見る 處には 居ぬ。 何處へ 行った

かと 見迥 はすと、 遙か向 ふの 東屋の ベンチへ 力無 ささう 凭れた ま、、 こっち 見て 笑って居た。

Q 靜け さは 前に 變ら ぬ。 日光の 目に 見えぬ 力で 地上の 凡て Q 活動 そっと 抑へ 付けて ある

見える。 氣分 はすつ かりょくな つたと ふから、 もう そろ 歸ら うかと ふと、 少し 驚いた

やうに 余の 顏を 見つめて 居た が、 折角 来たから、 もう 少し、 池の 方へ でも 行って みませう ふ。

それ もさう だと 其方 向く。

下り 、ると 下から 大學 生が 一三 人、 黄色い 聲でァ リスト トルが どうした とか ふやう

議論しながら 上って 来る。 池の 小島の 東屋に、 三十 位の 眼鏡 かけた 品の 好い.! 君が、

軍服の 男の 兒と 小さい 女の 兒を 遊ばせて 居る。 海軍 小石 拾って 0 すべらせて 快い

音を立て、 居る。 ベンチの 上に 皺くちゃの 半紙が げられ て、 上に カステラの 大きな がの 6

つて 居る。 「あんな 女の 兒が 欲し いわねえ」 妻が いつにない ふ。

出口の 方へ 崖の あるく。 何の 見る もの もない。 後で 妻が 「おや、 栗が」 不意に 大き

な聲 をして、 脇の 落葉の 中へ ひって 行く。 なる 程、 落葉に 交って 數の團 栗が、 凍てた

Q 土に ころがって 居る。 其處へ しゃがんで 熱心に はじめる。 見る 間に 左の 掌に 一杯に

る。 二つ 拾って ふの 便所の 屋根へ 投げる と、 カラく と轉 がって 側へ 落ちる。

帶の 間から ンケチ 出して 膝の 上へ 擴げ、 熱心に 集める。 「もう 大概に しない か、 馬鹿

だな」 云って 見た が、 中々 止めさう もない から 便所へ 入る。 出て 見る とま 拾って 居る。 「一

そんなに 拾って、 どうしょうと ふの だ.」 聞く と、 面白さう ひながら、 「だって ふの

面白 いぢゃありません か」 ふ。 ンケチ 一杯 拾って 包んで 大事 さう 縛って 居る から、

止す かと ふと、 今度 「あなたの ンケチ 貸して 頂戴」 ふ。 とう-^ 余の ンケチ

かの 圑栗 を充 たして 「もう 止して よ、 歸り ませう」 何處迄 もい \氣 をい ふ。

圑栗を 拾って 喜んだ はない。 Q 土に 苔の 花が 何遍 咬いた。 山に 團栗も 落ちれ

ば、 膽〇啼 音に 落葉が 降る。 今年の 二月、 あけて 六つになる 忘れ 身の みつ 坊を つれて、 此植

園へ 遊びに 來て、 昔ながら 圑栗を はせ た。 こんな 些細な 事に 迄、 傳と云 ふやうな ものが

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ある もの だか、 みつ 坊は 非常に 面白がった。 五つ 六つ 毎に、 息む はす ませて 余の 側へ 飛んで

來て、 Q 帽チ Q 屮へ ひろげた ンケチ 投げ込む。 段々 得物の して 行く のぞき 込んで、

頗を 赤く して 嬉し さうな 溶けさうな 顏を する。 はれぬ 母の 面影が 此無 邪氣な 顔の 何處 かの

チラ リと Q ぞいて、 うすれ \ つた 昔の 記憶 呼び返す。 「おとうさん、 大きな 團栗、 こい

いもく くく みんな 大きな 團栗」 小さい だらけの 指先で 帽子の 中に 累々 とした 栗の

一つ 突つつ く。 「大きい 圑栗、 ちいち やい 團栗、 みいん 利口な 圑栗 ちゃん」 出たら

めの 唱歌の やうな もの 歌って 飛びく しながら 义拾ひ 始める。 罪のない じっと見

入って、 亡妻 Q あらゆる 短所と 長所、 團栗 0 すきな 折鹤の 上手な も、 なんにも 遣傳 して

支へ はない が、 始めと 終りの 悲慘 であった 母の だけ は、 此兒に 返させ 度くない もの だと、

しみん \ さう 3 つた Q である。 (: 明治 三十 四月、 ホトト ギス)

一日 じめ くと、 人の 腐らせた 霧雨 もやんだ やうで、 かな- 闇の 重く? i つたお .1 に、 何處

かの 汽笛が 長い 波線 引く。 さっき 「靑葉 茂れる 井の」 繰返して 居た 隣の オルガンが 止む

と、 間もなく 門の 鈴が 鳴って 軒の 櫻の 0卞 Q ない のにば らくと 落ちる。 「初 樣だ、 あす

天氣だ よ」 勝手 方で んが獨 ふ。 地の 底ぉ.^ 5^ から 間え 來る 様な 々しい

響が 腹に こたへ て、 晝間 讀んだ 悲惨な 說ゃ、 隣の r 靑紫 しげれる Q」 やらが、 今:

かき 亂す。 こんな 時には 何時もす やうに、 机の 上に 突いて、 をお さへ て、 何もない

見詰めて、 あった 昔- ない 先き 夢幻の ふ。 何だか. 出さう としても、 出せぬ 事が

あって うっとりして 居る と、 雷の 音が 今度 近く 聞え て、 ふっと 出す と共に、 あり/ \-

前に 浮んだ は、 雨に 濡れた 龍舌蘭の 鉢で ある。

野の さんが 生れた だから、 もう 彼是 十四 年の 昔になる。 自分 もま やっと 十三

であった らう。 來る 幾日 雄の 初節句の をし ますから さん 下さる やうに チヨ ン鬅の

爺が 2: に來て 、其 時に 貰った 紅白の 餅が 大きかった 事も覺 えて 居る。 いよく 日4 一な つて、

母上と 自分と 二人で、 車で 出掛けた。 柄の 雨で 車の 窮屈であった。 自分 Q 住って 居る

一里 半餘、 石ころの m 舍道を ゆられながら やっと 姉さんの おへ 着いた。 Q 菖蒲 も闹に

しほれ 居る。 もう 大勢 客が 來て 居て 母上 一人々々 に懇に 一別 以來 の辭儀 をせられ る。 E

後に 小さくな つて 無沙汰で 居る と.、 折よ くこ、 ちゃんが 出て 來て、 待ち兼ねて 居た

風で 自分 張って 御池の 見に 行った。 姉さん 處には 池が あって 好い 子供心に 羨し

思うて 居た。 一寸した 中庭に 一杯に なって 居て、 門の 小川 C 水が 表から 床下 をく 1- つて 此池

田圃へ ぬける 様に して ある。 大きな 鲤、 緋鯉が 澤山 飼って あって、 頃の 五月雨に 增し

濁り水に、 おとなしく: いで 居る S ャんと 々凄まじい 音を立て \ はね 上る。 池の 圍りは

になって、 せた 卷柏、 稷橺竹 杯が 少し あるば かり、 そして 隅の たい 岩の 上に 大きな 龍舌蘭の

鉢が つて 居る。 姉さんが 家へ 入に なクた 時、 始めて この 見て 珍しい だと 思った が、

今でも 鄕の姉 度に 吃度此 池の 龍舌蘭 出す。 出した のは此 鉢であった。 W

池を距 て、 池の 問と G 付いた 此小 座敷の は、 所に 鑌く 物置の 都の, 上が 一寸し

やれた 屮ー 一階に なって 居る。

Q Q 田舍の 初節句の 祝宴 大抵 二日 績ぃ たもので、 親類 緣者は 勿論、 平素は り往來 せぬ

遠緣 のい とこ、 はと 迄、 屮には隨分遠くからはる,^泊りがけで出て來る。 それから 村の

人、 出入の 職人まで 寄り 集って 盛んな 祝であった。 近親の 婦人が 出で 杯盤の 世話 をし、

する。 \j 上、 町から 者を迎 へて 與を 添へ させる Q 例な 0 で、 此時も 二人 来て 居た。 これ

祝の ある 內は 泊って 居る ので、 池の ふの 一階 は此藝 者の 化駐 部屋に 休憩所に も义寢 室に

なって 居た。

夕方 近くから 夜中 過ぎる 迄、 家中 誤の はる 忙しい 騒がしい。 所でせ 鉢の ふれ 音、

庖丁 Q 音、 料理人 下女 等の 無作法な 話聲 などで 一通り 騒がしい 上に、 猫、 犬、 それから 雨に

込められて 11 集って 居る 迄が 一層の かさ 添へ る。 奥の間、 表座敷、 玄關 とも はす、

Q 人で、 それが 一人々々 御辭儀 をして は六ケ しい 挨桜を 交換して 居る。

雜の問 をく にり、 |! 儀の 頭の 踏み 越さぬ ばかりに 杯盤 座敷へ はこぶ 往來も

るから 忙しい。 子供 仲間が 大勢 出来た 嬉し さで 威勢よ く驅け 廻る。 自分 から

6B

氣な 性で、 こんな ぎが 面白くな いから、 いつもの 樣に 宵の 內ぃ& 加減 御馳走 食って しま ふと

奥の 藏の 問へ 行って 戸棚から 犬傳、 三國 誌な 引つ ばり 出し、 おなじみの 節、 孔明

ゃ關 羽に 親しむ。 此室は 女の 衣裳 を着更 へる になって 居た ので、 四面に すらりと 衣桁 並べ、

衣紋 掛け つらねて、 派手な やら、 地味な やら いろんな 着物が、 干の 時の 様に 並んで 居る。

白粉 臭い、 汗く さい 變な 香が 籠った 中で、 自分 乃が 濱路の 幽靈と 語る くだり を讀ん だ。 0

更ける につれ て、 座敷の 段々 かになる。 調子 合す 三味線の 音が すると、 淸ら かな女の

Q 手に 取る 樣に 聞え る。 調子 づれの 鄙歌が 一度に 起って をた \ もす る。 一し

り哏が 止んだ ふと、 不意に 聲肅々 誰れ やらが いやな 聲で わめく。

. 乃が 拱いて うつむいて 居る 前に 片手 を疊 にっき、 片袖 をく はへ 居る 濱路の 後に、 影の

様に はれた 幽靈 の鎗を 見て 居た 時、 自分の 後の 唐紙が する くと 開いて、 ひって 来た 人が

る。 見る 年增の 方の 者であった。 自分に はかま は. f 片隅の 衣桁に つて 居る 着物の 袂を さぐ

つて か帶の 間へ はさんで 居た が、 不意に 自分の ふり 向いて 「あちらへ いらっしゃいね、

ちゃん」 云った。 そして 自分の 傍へ 膝の ふれる 程に 坐って r ォ、 いや だ、 御化け と繪を のぞ

く。 髮の 油が ふ。 二人で だまって 無心に 此綺を 見て 居たら 誰れ ー淸 香さん J あっちの

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呼ぶ" 藝者 はだ まって 立って 部屋 出て 行った。

ちゃんと 一人で 奥の間で 寢て しまった も、 座敷の はま だ, W のさまで あった。

翌る日 朝から 雨であった。 昨夜の ぎに ひき かへ て靜か 過ぎる 程靜 かであった。 Q

敷、 同志 Q 一間へ 集って、 しめ やかに 話して 居る。 母上 姉さんと 押入から 子供の 着物な

W きちら して 相談して 居る。 新聞 を擴 げた 上に 居眠り 始めて 居る ある。 酒の.:?

つた くるしい 鬱陶しい 空氣が 家の 中に ちて、 誰れ 彼れ も、 とんと 氣拔 のした 様な 風で ある。

所では 折々 トン、 トンと 魚の 骨で 打つ らしい 調な 響が かな ,冢 中に いて、 それが

一種の 眠氣を さそ ふ。 中二階 G 方で、 つま 引の 三鉉の 音が して 「夜の もしゃ るかと」 とつ

ある 低い 聾で ふ。 それ もぢき 止んで 五月雨の 軒の 水が 亞紛 のと ゆに 咽んで 居る。 打つ

出した 様に 所に く。

から ちゃんな ど、、 ぢき 隣の 新宅へ 遊びに 行った。 內の 人は昝 姉さんの 方へ 手傳に 行って

居る ので、 中氣で 手足の 利かぬ 祖父さん 婆さんが 居る ばかり、 いつも は賑 かな ひつ

りして、 〕i ^の 間の 太郞ゃ 鍾馗も 淋しげ 見えた。 十六む さし、 將棊の 駒の てつこな どして:::

たが が乘ら ぬ。 側に 出て 見る を圍ふ 使い 土雜を 越して 一面の W える。 煙の

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様で、 遠く もない 八: t 衣笠 ぼんやり にじんだ :4- g 中に、 薄く 萌黄を ぼかした 田に

は、 取る 人の 笠が 黄色い 點を 打って 居る。 ゆるい 調子 Q、 さうな 歌が 聞え る。 歌の

問き 取れぬ が、 ?準 調な 悲しげ 節で 消え入る やうに 長く 引いて、 ふしが 終る と、 しばらく

つて ゆるやかに 出す、 此れ を閒 いて 居る 何だか をお られる やうで 急に 姉さんの

へ歸 りたくな つたから 一人で つた。 つて 見る ともう そろく 客が 始めて、 例の うるさい

儀が つて 居る。 さっきから 頭が 重い やうで、 氣が落 付かぬ 様で 人に 話しかけられる 0 がいや

であった から、 りで 藏の 問へ 入って 見た が、 すぐい やになる。 でも 見ようと 思って

池の ii 行って 見た。 側の 柱へ もたせて ぼんやり 立つ。 水かさの ました 田から 流れ込ん

草が、 ゆるやかに りながら、 Q 面へ 雨の しづくが いて 消し、 いて 消す 小さい.

一緒に 流れて 行く。 片隅の 組の 陰に 仲好く 集った ま、 かに 動かして 居る。 龍舌蘭

厚い とげの ある 紫が 濡れ色に 光って 立って 居る。 中二階の 池に 臨んだ 丸窓に は、 昨夜の 香の

淋しい 顏が兒 える。 窓の 緣に頻 をつ いたま、、 何やら はし さう 薄墨 色の 窓の 彼方 見つ

めて 居る。 こめかみに 貼った 頭痛 にか、 後れ毛 撫でつ けながら、 分の 向いた が、

くうな いて 片頓で 笑った。.

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夕方 母上 は、 あんまり あけて はと ふので、 姉上の 止める のに か、 はらす 歸る 事に なった。 2

「お前 も歸り ませう ね」 聞かれた 時、 歸る のが 何だか 名殘り 惜しい 樣な氣 もして 「ゥ ン」

中で 瞹眛な 返事 をす る。 姉さんが 「此兒 はい X でせ う。 ねえ、 お前もう 泊って おいで」

\ める。 之れ にも r ゥン」 鼻で 返事す る。 「泊る はい i 姉さんに 世話 をお かけで ない よ」

云って いよく 人で 歸る 支度 をせられ る。 立場 迄迎 にやった 車が たので 姉さんと 送つ

出た。 車が 柳の 番所の 迂を 曲って 見え なくなった 急に 心細くな つて、 一緒に 歸れ ばよ かった

3 ふ。 「さあ 御出で」 姉さん 引立てる 様に 內へは ひる。

頭の 工合が いよ. (- 悪くな つて 心細い。 母上と 一緒に 歸れ ばよ かった 心で 返す。 煙る 霧雨

ffl 圃道を ゆられて 行く 幌享の 樣な氣 がして、 なつかしい 我家の 門の 柳が 胸に ゆらぐ。

騷々 しい、 殺風景な 酒宴に 何の 心殘 りが あって 歸り そこなった のか。 りたい、 今からで も歸り

たいと 便所の 口の 緣へ 立った \ 南天の 枝に か、 つて ゐる 紙の てる 坊さんに 祈る やうに ふ。

雨の 日の 黄昏 知らぬ 間に 足で 軒に 迫って 灯と もし 頃の しい 時刻になる。 の內は 段々

かになる。 はしゃいだ 笑聲 などが 頭に 響いて しさ を增す ばかりで ある。

姉上に、 少し 持が いからと、 ひにくかった やっと 云って 早く 取って もらって

た。 萌黄 地に 肉色で 大きく 鶴の 染め 祓いた 更紗 團が今 心に つて 居る。 頭が 冴えて 眠ら

さう もない。 天井に 吊るした 金銀 色の 除け 玉に つた 小さい 自分の 寢姿を 見て 居る と、 妙に

氣が 遠くなる 樣で、 體が 段々 落ちて 行く 様な 何とも 知れす 心細い がする。 母上 はもう うちへ

りついて 奥の 壇の 前で かして 居られる かと ふと 譯も なく 悲しくなる。 姉さんの うちが 賑か

なのに 比べて 我家 G 淋し さが 身に しむ。 いろんな 事を考 へて 夜着の 領を 嚙んで 居る と、 淚が眼

りから こめかみ を傳 うて 枕に しみ 入る。 座敷で 「夜の 雨」 ふの 聞え る。 池の 龍舌蘭が

浮ぶ と、 香の 額が 見えて 片頰で ふ。

此夜 凄まじい 雷が 鳴って 雨雲 蹴散らした。 はすつ かり 晴れて 强ぃ 日光が 青葉 射て 居た a

起して 顏を 洗った 自分の もせい くして、 勇ましい 公園の 投げ、 川の 振と ® けめ

ぐった。

ちゃん 立派に 大きくな つたが、 龍舌蘭 はない。

はやんだ。 あす らしい。

(明治 一一 一十 ホトト ギス)

73

始め 此濱 來た 山吹 花が 垣根に 散る 夕で あった。 濱へ 汽船が 着い 宿

来ぬ。 獨り 荷物 かついで 臭い 漁師町 通り 拔け、 はった 通り 防波堤に 沿うて 町ば かりの

宿の 裏門 を、 やっとく つた 時、 朧の門 脇に 捨てた 貝殼に、 此の 山吹が 亂れて 居た。 翌朝 見る と、

山吹の 垣の 桑畑で、 中に 木蓮が 二三 美しく いて 居た。 それ 散って 紫が 茂って 夏が 来た。

はもと 料理屋で あつたの を、 改めて 宿屋に した さう で、 二階の 大廣 問と ふの 不相應

大きい ものである。 自分 は病氣 療養の めしば らく 滞在す 積り だから、 下の 挢と札 Q

いた 小さい 借りて 居た。 - ちょっとした 庭を控 へて、 庭と 桑畑との 境の 群に は、 宿の 三毛

が來 てよ く晝眠 をす る。 風が 吹けば 外の 柳が 靡く。 二階に 客の ない は大廣 間の 中へ 椅子

出して、 三十 疊を 一人で 占領しながら 見晴らす。 右に は染 谷の 岬、 左に 井の 岬、 沖に

は鴻 島が 晚に變 つた 色彩 見せる。 三時 頃から はもう 漁船が 歸り 始める。 潮に はれる 此浦

波の 濃く 紺靑を 染め出して、 夕日に かビ やく. MI 帆と 共に、 強い 生々 とした である。 之れ

美しい が、 夜の 欸乃 は伦 しい。 譯も なしに 身に 沁む。 此處に 來た當 耳に 馴れぬ 風の 夜の

音に :!:: 醒めて、 遠く 切れく 消え 人る 唄の 聲を伦 しがった 馴れ、 苦に もなら ぬ。 宿の

心安くな つて 見れば 商賣氣 離れた 親切 もあって 嬉しい。 雨が 降って 濱へも 出られぬ は、 帳場

茶話に 呼ばれて、 時には 宿泊人 届の 傅って やる ある。 主人 六十 餘り Q 女で

あった。 晝は 大抵 沖へ 釣りに 出る ので、 Q 料理人 番頭の 辰さん 任して 居る らしい C

沖から ると、 獲物 を燒 い. Q 猫に 御馳走 をして やる。 三毛と 黑と 玉。 夜中に 婆さんが

目を醒 した 時、 一匹で 足りない と、 家中 呼んで 歩く ため、 客の 迷惑す 時には ある。

婆さんから 色々 客の- M: 輪の 聞かされた。 盗賊が 紳商に 化けて 泊って 居た 時の 話、 鹿の

人が 漁師と 同腹に なって 不正 働いた 一條な ど、 大方 はこん はす 語りに 話した。 屮には

哀れな もあった。 數年 前の 夏、 二階に 泊って 1^ 若い 美しい 人の 妻の、 肺で 死んだ 臨終の さま

, など、 小說 などで めば 陳腐な も、 かう して 聞けば 淚が 催される。 浦の 夜の 茶話 心に

•M つて 居る が、 それよりも、 婆さんの 潮風に すんだ よりも、 Q 山吹よりも 深く 心に: ルみ込

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んで 忘られぬ のが ある。

宿の 裏門 出て 堤へ 上り、 右に 折れる 松原の づれに !際 大きい 松が、 潮風に 吹き 曲げ

られた 垂れて、 下の 藁屋根に 歳の 落葉 積んで 居る。 松の 根に 小屋の 様な ものが 1

ある。 掘り 立てた ばかり、 屋根 骨ば かりの 障子に かけた \ で、 人の 住む

はれぬ が、 內を观 いて 見る と、 船板 並べた 上に、 破れ 蒲團が ころがって 居る。 蒲團と 云へ

蒲圑、 綿の 板と 云へば さう である。 小屋の すぐ 前に 屋臺 店の 樣なも のが 出來て 居て、 それに

よごれた 叭を 並べ、 馬の 餌に する やうな Q 切れ端し や、 砂埃に 色の つた 駄菓子が 少しば かり、

ル辑の Q とれた のに 夏菊 さした のが 一方に 立て \ ある。 店の 軒に は、 靑ゃ 赤の 短冊に、

俳句 fS 散らした Q が、 間もなく 下がって 風に ふられて 居る。 かう 不思議な 店へ

こんな ひに 來る 人が あるかと 怪しんだ が、 際さう 一度 見た 事がなかった。

其れ 拘らす はいつ 飾られ 居て ビ— 曙の Q 枯れて 居る 事はなかった。

誰れ にも 譯の わからぬ 店に は、 心の 知られぬ 熊さん 居る。

自分 濱邊へ 出る のに、 いつも 店の 前から 下りて 行く から 熊さん 毎日の やうに

合せる。 土用の ざし 狭い 一杯に 涼しい 松の こしら へて 飽き 足らす、 下{:^^薯畑に

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ひか \ らう とする 處に: K きな 丸い 捨石 があって、 熊さん Q 爲に 好い 安樂 椅子 になって 居る。

もう 五十 越えて 居る らしい。 ー體に 逞しい 骸で顏 はいつ 0 樣ぉ 光って 居る。 はむ

しく 延び 煤けて 居る かと ふと、 惜しげ もな クリ; /.\ 剃り こぼした を、 日に 當て、 も平氣

居る。

着物 は何處 かの 使 Q お古ら しい G 上衣に、 ^色染 股引 囚徒の かと はれる。 ー體に

無口ら しいが 通りが \り0 漁師な どが 聲を かけて 行く と、 重い 濁った 返事 をす る。 貧苦に

沈んだ 暗い 聲で はなくて 0 る猛獸 Q 吼聲 Q 様で ある。 いつ 恐ろしく 面目な をして 煙草

ふかしながら Q 見て 居る。 怒って 居る Q かと 始めは 思った がさう ではない らしい。 いつ

見ても 變ら ぬ、 これが 熊さん の顏 なので あらう。

始めは 不思議な 店、 不思議な 熊さん 氣味惡 思うた が、 慣れて しま ふと そんな 感じ もない。

松原 Q 外れ こんな 店が つて こんな 人が 居る 0 極めて 自然な 事と なつ てし まって、 能::

歷史 ゃ此店 Q いはれ などに 就いて、 少しも 想像 をした もな く、 人に 尋ねて 見る 氣も 出なかった。

もし これで 何事もなく 別れて しまったら、 恐らく 今頃 熊さん 事な は疾に 忘れて しまった

知れぬ が、 唯一 つの 出來 事の あった 爲め 熊さん Q 面影 も: CI について つて 居る。

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濱を搖 がす 嵐が 荒れた。

嵐の 前の. w、 客の ない 暗い 二階の 欄干に 凭れて を兑て 居た。 問から 怪しかった 雲足 愈"

早くな つて、 北へ くと 飛ぶ。 映の 常に つた 黄色 を帶 びて 物凄い 間に、 それ

消えて、 暮れ か- -る濃 鼠の を、 ちぎれく 綿雲 は惡 夢の やうに 〔氽 てもなく 沖から 襲うて 來る"

沖の 奥は眞 暗で、 漁火 見えぬ。 りを帶 びた 大きな 星が、 ぇ隱れ 雲の 瞬く。 いつもな

らば 风の蒸 暑く 重苦しい 時刻で あるが、 今夜 妙に, つぼい 冷い 風が、 一し きり 二し きり

桑畑から 讽卷 いて は、 暗い 床の間の 褂物を ふる。 軒の 風鈴 HT 兌えぬ 魂が 入って

動く 樣に思 はれる。

濱邊に 焚火 をして 居る のが 見える。 之れ 毎夜の 事で 漁した 割いて 炙る ので あるが"

濱の闇 破って 上る 焰の色 美しく、 はりに 動く 赤裸 Q 人影 を鮮 かに 浮上ら せて 居る C

靡く 度に それが ゆら/. \ と:^ れて 何となく 凄い。 孕の 鼻の 陰に 泊って 居る 帆前船の 舷燈の

光が、 大きく うねって 居る。 岬の 上に 警報 臺の 赤燈が 鈍く 灯って 波に 映る。 何.^ かで ホ— ィと

ぶ聲が 風の しきりに 图に 響く。

だと へながら 二階 下りて 室に つた。 机の 前に 禅んで、 戶袋を はたく S 蒸の すれ

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聞きながら、 將に來 らんと する 浦の 嵐の 壯大を 想うた。 地の 底から 重く 遠くうな つて 來る。

かう 淋しい 夜に はと 帳場へ 話しに 行った。 婆さん 長火鉢 前に 三毛 膝へ せて 居眠り

をして 居る。 辰さん 小聲で 義太夫 唸りながら、 あらの 始末 をして 居る。 女中 部屋の 方で

氣な 笑聲が もれる。 外の 景色に 引き かへ て此處 はいつ もの 様に 平和で ある。

嵐の 話に なって 婆さん 古い 記憶の から 恐ろしく 凄かった 語る。 辰さん 敷から

槌を うつ。 いっかの 大嵐に は黑ぃ 波が 一町に 餘る濱 上って 松原の 洗うた" 沖を兒

居た 人の 話に、 霧の 如く 煙の 様な 燐火の 群が 波に つて いで 居た さうな。 測られぬ 風の 力で

無き 大洋 ふって 地軸と 戰ふ濱 嵐に は、 人間の 弱い 事、 小さな 事が 名淺 もな はれて、

幽冥 Q 境へ 寄せられ、 こん 物も兒 Q だら うと 思うた。

添へ 刻に のる。 波音 次第に 近くなる。

窒へ歸 時、 二階へ 段の 下の 土間 通ったら、 鳥屋の 屮で 鶴が サコソ とま だ寢 付か

ぬらしく、 ク、 淋しげ 鳴いて 居た。 床の 中へ もぐり 込んで 聞く と、 松の 栂か 垣根の か、

長く 鋭い 叫聲を 立てる。 此樣な 夜に 沖で 死んだ 人々 魂が 風に 乘り 波に 漂うて 來て 悲鳴 上げる

かと、 さき Q 火の 出し、 しっかりと Q 袖の 中に 潜む。 聲は それでも 迫って 雨戶 7.

にす がる かと 恐ろしかった。

方に はや、 a: いだ。 止んだ 波の音 はいよ 高かった。

起きる とすぐ 見ようと 裏の 堤へ 出た。

熊さん Q 小屋 もな 壌れ 居る。 防ぐ 遠い 下へ 飛んで 竹の 傾き 倒れ、

飾った 短冊 雨に 叩け 松の 青葉と 一緒に 散らばって 居る。 曙の 芋の 切れ端 も散亂

して 熊さん Q 蒲團は 濡れし たれて 居る。 熊さん 見廻した 何處へ 行った 姿も兒

然として 濱邊 へと 下りた。 畑の 芋の 蔓は 搔き亂 した 様に 荒らされて、 名殘の 嵐に 白い

逆立て \ 居る。 はま 暗い。 ちぎ^^か\った雨雲の尾は鴻島の上に垂れか、って、

登る 霧と つになる" 近い 岬の 岩間 走る 白い 振り して 毛の 獅子の であ

る。 暗綠 色に 濁った 濤は 砂濱を 洗うて 打ち 上った 藻草 もみ かう とする。 夥しく 上った 海月が

五色の 砂の 上に 光って 居る 美しい。

寛げた 寢衣 Q 胸に 吹き 入る しぶきに 身顫ひ をして ふと 場の 見る と、 波打 際に しゃがんで

居る 人影が 霧の 中に ぼんやり 見える。 熊さん だと 一目で 知れた。 倉の 服に 色の 股引 外に

はない。 よべ 0 嵐に 吹き 寄せられた 权片 木片 集めて 居る ので ある。 自分 行く ともなく

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方へ 歩み寄った。 いつも Q 通りの 銅色の をして 無心に 藻草の あさってお る。 顔に 憂愁の

見えぬ。 自分が 近寄った も氣が 付かぬ か、 心に 拾って は砂濱 の-高みへ 投げ上げて 居る。

近く il^ 知ら を拭 とも

何處 の浦邊 から ともなく 波に. 漂うて 上った 木片 板片の 過去の 藤史は 波の 彼方に 葬られて、

こに^ ない 見せて 居る。 人の 知らぬ 熊さん 半生 は賴 みに ならぬ Q 心から 忘られて しま

つた。 遠く もない 墓の 閫に 流木 拾うて 居る あはれ 姿 ひしと 心に 刻まれた。

大な此 場の 自然の 光景 背景に、 無心 熊さん 見た 刹那 自分の 心に 湧いた 感じ

筆に かけす にも はされ ぬ。

宿へ つたら 女中 Q 八重が 室の 掃除 をして 居た。 「熊 公の はつ ぶれて 仕舞った よ」 云つ

たら、 衣を疊 みながら 「マァ 可哀相に Q かみさんの 居た あんなで もなかつ たんで

すけれ ど」 身に つまされ でもした 様に しみぐ 云った。 それに 答へ ネ緣側 0 柱に

凭れた \ 名续と 吹き 散る 白雲の ぼんやり 眺めて 居た。

(明治 11 十九 》:、 ホトト ギス)

暖ぃ緣 北::: 丸く して 横になる。 小枝 Q 先に 散り つた 枯れ/. \ 紅^が := に:^ えぬ 風に ふる

へ、 時に Q やうな 小さい 蟲が 小春の 日光 浴びて 垣根の を斜に 閃く。 眩しくな つた 眼を窒

內へ 移して 鴨居 見る と、 こ& にも 初冬の 「森の 繪」 額が 薄ら寒く つて 居る。

Q ^ 0 IS

0 方へ く。 11 もない 茂りの 綠は 霜に さびて はれぬ & 彩が 梢から^ と,^^かに

移り つて 居る。 コバルト Q 空に 玉子 色の 綿雲が 流れて、 遠景の 野の * 陵に 紫の

す。 Q はづ から 近景 かけて 石ころの 多い 小徑 がう ねって る處を 橙色 着た 犬の

長い 杖に し、 前に 五六 頭の 追うて トボく 出て 來る。 近景に 低い 灌木が 處々 茂つ

中には 蕃の樣 枝に 紫が 僅に くっ付いて 居る ある。 あちらこちらに 切り倒された 大木の

It

下から、 眞靑な 齒の鋸 葉が いて 居る。

寧ろ 平凡な 題で、 作者 わからぬ。 が、 此繪を 見る度に かな M 舍の { 氣が畫 面から

流れ出て、 森の 香は薰 り、 聞く やうな がする。 C 外に まだなん だか 胸に 響く 様な

喜びと みの 念が 湧いて 來る。

卄年 前の 我家の すぐ 隣り 叔父の 屋敷、 兄の 信さん 宅であった。 畑の Q 中の 小徑か

我家と 往來が 出来て、 Q ふから 柹が靦 けば こちらから 烏瓜が ふ。 藪の 中に 一本 大きな

椿が あって、 耱の 渡る は、 落ち 散る を:^ 枝に 貫いて 遊びの 陣屋 飾った。 木の {4! にか

仕掛けて 鹎を 捕った ある。

叔父の 富んで、 奥座敷な は廿疊 もあった らう。 美しい 毛氈が いつでも 敷いて あって、

間に 木彫の 龍の 眼が 光って 居た。

いっか 信さん 部屋へ 遊びに 行った 時、 見馴れぬ 繪の 額が \ つて 居た" だと 聞いたら 油畫

だと 云った。 0 では 石版 刷の 油畫は 珍しかった ので、 西洋 畫と 云へば 校の 畫帖 より

見た ことのない 眼に 始めて 此油畫 見た 時の 愉快な 感じ 忘られぬ。 畫は矢 田舍の 風景で、

ゆるやかな 流れの 岸に 水車小屋 があって 柳の 様な 木の下に 白い 頭巾 かぶった 女が- 鴨に 餌で

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やって 居る。 何處で 買った かと 聞いたら、 町の 店に こんな や、 もっと 大きな 美しい のが 澤山

に來て 居る、 ナボレ オンの 戰(=_^'0 があって、 それ 欲しかった ふ。

家へ つて 夕飯の 膳に ついても 繪の 事が はなれぬ。 黄昏に 羽織って 母上と 裏の 垣で

寒竹 苟を拔 きながら 繪の事 思って 居た。 薄暗い ムプの 光で 寒竹の をむ きながら 美しい

浮べ て、 淋しい C 橫顏を 見て 居たら 急に 心細い 様な 氣が 胸に 吹き 入って 睫毛に 淚が にじ

んだ。 何故 泣く かと 母に 聞かれて なほ 悲しかった。 そんなに 欲しく 買って 上げる。 si- 癖に

んな 事で はと 論され 更にし やくり 上げた。 母は蟲 抑へ の藥を 取り出して 呑ませて くれたが あの

時の 自分 Q 今でも 說明は 出来ぬ。 幼く 片親の つで 育って 餘り豐 でない 生活が 朧げに 胸に

しみ 浮世の 木枯 はもう 周圍に 迫って 居た から、 かの 刺戟 はすぐ に譯の わからぬ 悲みを 誘うた

だ。

あくる 日錢を 貰うて 先づ擧 校へ 行った が、 敎場 でも 時々 繪の 事に はれ、 先生に 聞か

れても 聞かれた 分らぬ 様な もあった。 課の ベル 待ち兼ねて 學校を 出し、 1;^ さんに

はった 尋ねたら、 すぐに わかった。 店へ ひると 一面に 吊した 絡の スの 香に うてし

まふ。 あれ 好い。 これ も氣に 入った。 鍍冶屋 煙突から 吹き出る 赤な 焰が黑 ぃ樹に 映えて

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森の 上に 靑ぃ 月が 出て 居る 欲しかった が、 何となく かな 「森の 檎」 にきめ た。 粗末な

額緣を はめて 貰って 大事に 新聞で 包んで 出た は、 心臓が 高い 立て \ 踊って 居た-

歸り 途に舊 城の 通った。 御城の 杉の 丁度 此繪と 同じ 様な さびた をして、 濠の

上に ふるうた Q 大木が、 枯菰 Q Q つめたい 水に 落して 居る。 溱に 隣った 牧牛

柵の 中には 牛と 小牛が 五頭、 愉快 さう にから 横に ゆすって はねて 居る。 自分 もなん

嬉しくな つて 口笛 をピ くと 鳴らしながら 飛ぶ やうに して つた。

森の 鎗が 引出す 記憶に 限りがない。 一尺 五寸の 粗末な 額緣の 中には あらゆる 幼時の

美しい 幻が 疊み 込まれて 居て、 折に ふれて は畫 面に 出る。 現世の 故鄕 はう つり つても Q

寫る廿 年の はさな がらに 美しい。 外の 記憶が うすれて 來る 程、 森の Q 記憶 は鮮 になって

0

他鄕に 漂浪しても 此鎗 だけ 捨てす 持って来た。 額緣も 古ぼけ、 大分 煤けた やう だが、

「森の 繪」 はいつ でも 新しい。 「明治 四十 月、 ホトド ギス)

少し 肺炎の 徴候が 見える やう だから 能く 御注意なさい、 いづれ 今夜もう 一遍 見に ますから

置いて 者は歸 つてし まった。

枕元の 火鉢の 傍で ひかけ 子供の 春着 膝への せた \ ふの 唐紙の 更紗 模様 をボ

ャリ兑 詰めて 何か考 へて 居た が、 出した 様に、 動かし 始める。 縮緬 Q 三つ身の 袖に

唤き 亂れた 春の 車が 染め出されて ゐる。 孃ゃ はと 聞く と、 さっきから 晝寢と 答へ 切り、 元の

無言に 歸る。 火鉢の 瓶の 單調 なかす かな 音を立て、 居る だけが、 何だか 强ぃ樣 感じ

させる。 険に蔽 ひか \ つて 來る米 直しながら、 障子の ガラス 越しに 小春の {<.! 見る。 透明

天地に ちて そよ との もない。 門の 垣根の 外に 近所の 子供が 二三 集って、 高に

云って 居る が、 其聲が 遠くの やうに 聞え る。 枕に つけた 片方 Q 0 奥で は、 動脈 Q 濯る 音が

影の 菊枯

明に つて 居る。 .

肺炎 かと ふ。 此れ迄 旣に 二度、 同じ 病氣に 罹った 時分の 出す。 始めての 未だ

小舉 時代の 事で、 大方の 忘れて 仕舞った。 病氣の 苦しみな 丸き 忘れて しまって、

氣の 時に 嬉しかった 様な だけが、 順序 もな 浮んで 来る。 ー體 自分 は兩 親に 取って 掛け 眷へ

のない 獨り 子で、 我儘にば かり 育った が、 病氣 となると 一層の 我儘で 手が 付けられなかった さう

である。 でも 中々 大人しく のまぬ。 此れ を飮ん だら あれ 買って やる からと 云った 様な 事で、

枕元に 玩具 ゃ繪 本が 堆く なって 居た。 少し 快くなる はもう 外へ 遊びに 出ようと する、 それ

引き止める めの 玩具が 増した。 之れ 例に なって、 はなんでも 少し 金目の か、 様な

しい は、 病氣の 時に ねだる 事に した。 病氣を 種に ゆする 様な 事を覺 えたの あの 時だった

ふと、 親の 額が 今更に なつかしい。 二度目に 罹った 學校を 出て 高等 校に 移った 明け

春であった。 始めての 他鄕 G 空で、 病院の 二階 Q ゴヮ, ^する 臺に寢 乍ら 窓の 櫻の 朧月

見た 流石に 心細い S 心った。 丁度 ニ擧 期の 試驗 のす 前であった が、 忙しい 中から 鄕の友

等が 入り 代り 見舞に 來て くれ、 みんな 足しない 身錢を 切って 菓子 だの rai^ だのと 持って来て は、

員に 叱られる 樣な 大きな 聲で 愉快な をして 慰めて くれた。 あの 時の 今から 考へ 見る と、

或は 自分の 生涯の 中で 最も 幸福 時だった かも 知れぬ ふ。 憎まれ 世に ると 諺の

云へば、 身體が 丈夫で、 智惠 があって、 金が あって、 世間 を鬮 歩す る爲 めに 生れた 様な は、

情の 林檎 かじ つて ひな がら 泣く 樣な事 あるの 知らす にし まふ かも 知れない。 Q

自分 は愛讀 して 居た 書物な G 影響から、 人間 別になん にもし なくても、 平和に 綺麗に 一生

過せば それでよ いと 云った 様な 考が 漠然と 出来て 居た ので、 病氣で 試驗を 休まう が、 落第し

うが、 そんな 一向 心配し なかった。 寧ろ 病氣で 身體が 弱くな つて、 學問 など 出来ぬ 様になれ

ば、 それだけ 自分の 夢み 居る 様な 無爲の 生涯に 近づく ので あるまい かと 考へ たりした。 E

少しば かりの 田地が あるから、 それ 生計の しろと して 慰みに 花で 作り、 餘裕が あれば 好き

本で 買って 讀む。 一遍 見!! つて、 ると 溫ぃ牛 a がの める し、 *: 飽きたら

水で もやって ピアノで 鳴らす。 誰れ 恐れる 諛ふ事 入らぬ、 我獨尊 Q 1^ 愉快

らうと 夢の 樣な 呑氣な 事を眞 面目に へて 居た。 それで 肺炎から 核に ならう と、 なるまい と、

そんな 念頭に 置かなかった。 肺炎 は必 すなほる と定 つたわけ でもな し、 il 違へば 死ぬ

だら うに、 あの 不思議に 死と 少しも へなかった やうで ある。 夭死す るの

なと 思った はあった が、 死が 恐ろしくて さう 思った ので はない。 夭死と 事が、 何だか

88

影の 菊枯

美しい 事の 様な 持が したし、 Q 時考 へて 居た 死と Q は、 有が 無になる 様な 大事

ではなく、 花が 散って 代りに 若葉の 出る やうな ほんの 一寸した 變り 目で、 人が 死んでも

そこらの 野の花に なつ て^いて 居る 樣な 事を考 へて 居た。 こんな 持であった から、 多少 C 病苦

はあった にも 拘ら す、 不思議な 愉快であった。 呑氣 にあ せらす よく 養生した めか、 あの

はから だが 却って 前より 良くな つた。 そして 醫者ゃ 友達の める がま、 運動 始めた。 一一

もやった、 自轉享 稽古した。 食物で 肉類な は餘り 好きでなかった 0 やり 出して

から、 なんでも 好きに なり、 あの 頃から 少し める やうに なった。 前に 人前に 出る とぢき

はにかんだ りした のが、 校友 會で 下手な 獨唱を 平氣で やる 様になった。 なんだか 自分 Q 性情に .

迄、 著しい 變化 Q 起った は、 自分で もよ くわかった し、 友達な ども さう 云って 居た。 しかし、

それ 表面に はれた 性行の りに 過ぎぬ ので、 生れ 付き 消極的な 性質 何處迄 も變ら ぬ。

な. 今頃 消極的な 俗吏 になって、 毎日 同じ やうな 消極的な 仕事 を不 思議と

やって 居る はない かも 知れぬ。 自分 法科な どへ ひって こんな 俗吏に ならう 云ふ樣

な考は 毛頭なかった。 中擧 校に 居た 頃、 先で 何になる 積り かな ど、 よく 人に 聞かれた あつ

たが、 になる 積り だか、 そんな はま だ考 へて 居なかった。 もし へたら 何もなる ものが 無く 8

困った かも 知れぬ。 官吏 はどう かと 云った もあった が、 役人と もの は始 から 嫌だった。 g

譯も わからないで 無暗に 威張り散らす G 役人 だと 思って 居た。 郵便局の や、 稅務署 の受附

などに、 をり 權突を はせられ 度に、 益ミ 厭に なった。 それから 軍人 嫌であった。 其頃始

めて 國の 聯隊が 出來 て、 兵隊 ゃ將 校の 姿が 物珍しく、 劍ゃ勳 章の 目につく うち 好かった が、

厭な 事が 子供の 目に 見えて 來た。 日曜に 0 煮寶屋 などの 二階から、 大勢 兵隊が 赤い 出し

て、 逢の 娘で 通り か、 ると、 的々々 杯と かしたり、 グヅ/ \ -に醉 つて 二三

引き合うて 狭い 舍道を 傍若無人に 歩いたり する のが、 非常に 不愉快な 感じ 起させた。 兵隊

いやな もので も、 校と もの はい、 もの だら うと 思って 居た が、 いっか 練兵場で 練兵す るの

見て 居たら、 1 右い 校が 人の 兵隊 をつ かまへ て、 何か聲 高に 罵し つて 居た。 使の 野卑

憎らしかった は、 傍で 聞いて 居る 子供心に カット 腹が立った。 許り 兵隊が 可哀相で、

反身に なった 士官の 胸倉 飛び付 やらう m た。 其れ 以來 軍人と もの 凡て あんな

もの かと 樣な單 純な 考が 頭に 沁みて 今でも 消えぬ。 こんな だから、 學校 でも 軍人 希望の

など、 はどうしても 肌が はぬ、 さう 連中から 蟲黨と 目指されて、 行軍 演習の 時な ど、

隨分 意地 惡く いぢめ られ たもの だ。 際弱蟲 の泣蟲 にはちが ひなかつ たが、 それでも 曲った

影の 菊枯

無法な 事に 負か される は大 嫌で あった。 無理の 迫が 劇し 時には 弱蟲 の. 本性 現し てす

出す が、 P (けぬ だけ 弱い 魑を驅 つて 軍人 黨と 格鬪を やらせた。 意氣 地な 泣きながら

死力 出して、 何處 でも 手當り 次第に 引つ かき みつくの であった。 喧嘩 慰みと 思って 居る

人黨 と、 一生懸命の 弱蟲 との 袼鬪に 大抵 利口な 軍人の 方が 引く。 これ どちらが 勝って

ちらが 負けた だか、 今考 へても 判らない。

ゥト くこん 事を考 へて 居た が、 氣が ついて 見る 垣の 外で はさつ きの 子供 等が まだ 大きな

聲で 歌ったり わめいた りして 居る。 かさら しいの か大將 ぶって 指揮して 居る。 こんなの

大方 軍人 になる だら うと 思って、 過ぎた 我が 半生の 影が 垣の 外に ちらつく やうに ふ。 突然

Q 家の けた 音が したと 齊に驅 出し それ 切り 何處か 行って

舞った。 風のう なりが プン 聞え 居る。 追々 高くなる らしい。 口が 乾いて 舌が 上顎に

貼り付く。 少し 眠りたい 思うて 返り をす ると、 額の 氷袋の 氷が カチ くと 鳴って

なれる。 まだ 傍で 使うて 居た それ を當 てな ほしながら 氣分を ふ。 一片の 旨い 口に

入れて ふ。

もう 何事 も考 へまい 思った が、 一の 爲に 亂れた 頭に はさつ 迄考へ 居た 樣な 事が うるさく

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ig 纏うて 來る。 そして 腦が 過敏に なって 居る 爲か、 不斷 はまる 忘れて 居た 様な 出して

來る。 自分 子供の 時から 繕が 好きで、 美しい 見れば 欲しい、 美しい 見れば いて 見た

い、 新聞 誌の 插畫 でも 何でも 彩色して 見たい。 彩色と 云っても 搶具は 黄に 墨に 代赭 位より

しかなかった が、 いっか 伯父が 東京 覽會の 土産に 擔具を 買って 來て くれた は、 嬉しくて

幾晚も 枕- 兀へ SJ^ いて 寢て、 服が める 否や 大急ぎで あけて、 數々 具を撿 杏した。 夕燒の

C 色、 霜枯れの 野の 見て は、 どうしたら あんな 色が 出来る だら うと、 それが つの

かす 様な 望みであった。 伯父 は畫 かきに なったら どう だと 云った 事が ある。 c: 屮擧に 居た

父に 話して、 鎗を習 はせ くれぬ かと 願った 事が 屢、、 ある。 度に はいつ でも かう 云つ

てお た。 はお まへの 行末の 志望に 就いては 少しも 干涉 せぬ。 附け燒 刃と もの 何にもなら

ものである。 何でも CE 分の 好いた 方、 氣に {! いた やる 得策 だ。 倂し綺 それば かり

業と して、 それで 生活し ようと ふに は餘 りに 不利な ものである。 折角 立派で も、 衣食に

はれて 畫く樣 では、 よい 繪は 出来す、 第一 繪に氣 品が なくなる。 何でもい \ が、 外に 少し 立派

衣食の 得らる、 樣な事 修めて、 傍ら 自分の 慰み半分:^ かく 事に したら どうか。 衣食 足った

人の 樂に畫 いた もの 下手で 然の氣 品が あって 尊い もの だ。 とかう ふので ある。 自分

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影の 菊枯

成程と 3=J つて 其の あ. きらめた が、 さらば やって 立てる かと 考へ も、 やっと 中擧を

出ようと 自分に、 どんな 事が 最も 好い 分り 鼓ね た。 工科 數學が 要る さう だから やめた。

.醫 死骸 解剖す ると 聞いた から つた。 そして 父の ふま \に 進まぬな がら 法科へ ひって

政治 やった。 附け燒 はせ ぬく ひながら、 終に 獨り 子に 附け燒 刃の 政治 修めさ

せた 事になる。 併し 恐らく 誰の 罪で あるまい。 rtl 分は此 事を考 へる と、 何よりも 年老いた

父に 氣の毒 だ。 折角 一身 させようと 思へば こそ、 祖先 傳來の 田地 減らして 學資を 給し

くれた を、 まあ 失望 させた 様な 有様で、 深い m 舍に此 燻ぶらせて 居る かと ふと、

となく 悲しい 持に なって しま ふの だ。 三十に して 俗吏な りと ふ樣な 句が あつたと ふが、

自分の 正に それで ある。 今ハ 牛の 文官 試験に も殘 念ながら 落第して しまった。 課長の 處へ挨

行ったら、 仕方がない やる さと 云って くれた。 もさう 思った。 去年の 試驗 にしく じった

矢張り 仕方がな いと 思った が、 仕方がな いと 今度のと 少し 持が ふ。 去年 0

處か 快活な、 希望の 力の 籠った 「仕方がない」 であった が、 今度のに はもう 弱い 失望の 聲が少

はった 様に はれる。 分ながら 心細い。

五日 役所で 忘年 の廻狀 がま はった。 會費は 年末 賞與 の三プ B ント、 伍し 賞與 なかり

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金贰圓 也と あった。 自分 試驗の 準備で 大分 役所 休んだ 爲に、 賞與は 受けなかった が、

狀の 但し 書が 妙に 可笑しかった からつ 出掛ける になって 出席した。 少し 酒を過ごして Qf

で寒氣 がした が、 あの はもう 旣に 病に 罹って 居た だ。 つて たら 熱が 出て それ 切り 起き

られ ぬ。 醫者は 流行 性で 大した はない 云って 居た が、 来た 妙に 丁寧に 叩いたり

聞いたり して ひねって とう. あんな こと 云って つた。 愈、、 肺炎 だら うか。 さう ふと

なんだか 呼吸が 苦しい である。 段々 上る らしい。 天井 見る 非常に 遠く える。 耳が

えす 鳴って 居る。 傍に 坐った 妻の 顔が 小さく 遠い 處に 居る 様で、 その 顔色が 妙に 蒼く つて 兑ぇ

る。 氷袋 を氣 にして 時々 さはって 見る が、 始終 無言で ある。 子供 はま だよ 寢てゐ るか 一::

せぬ。 何となく 淋しい。 人に 遠く 離れた 問の 中に、 しんとして 寢て 居る 樣な心 持で ある。

表の 通りで 砂利 をかん 勢よ 駅け 人車の 矢聲も 聞え る。 晴れ 切った. S &は、 かすかな、

そして 長閑な 世間の どよめきが 聞え て來 る。 それ 自分 だげ 陰氣な 穴の 中で 聞いて ゐる 樣な氣

がする。 何處か 遊びに 行って 見たい。 行かれぬ のでな ほさう ふ。 E 端邊 りで 好い。 廣々 した

畑地に 踏んで、 冬枯れの 木立の 上に 高い 蒼. S 流れる 雲で 見ながら、 當も なく 歩いて

たいと ふ。 いつも s 一日 役所の 殺風景な 薄暗い 部屋に C 籠って 居る し、 日曜と 云っても

94

影の 菊枯

計な 調べ物 ゃ內 職の 飜譯 などに はれて、 こんな 事を考 へた 事も少 いが、 ^ん で寢て 見る と、

急に 戶外 のうら、 かな 光が しくて くすぐられる である。 早くな ほり 度い。 なほつ たらみ

なを 連れて 一日 遊びに 行かう。 いつ 治る だら う。 無論 治る 治る 思って 見た が、

つと 二三 肺炎で 死んだ 姪の 出す。 死ぬ 少し 前まで、 わたしが 治ったら 處へ行

くと か、 ふと か、 よく そんな 云って 居た ので、 死んで から みんなで こと 云って

よく 泣いた。 肺炎 容易なら ぬ病氣 だと ふと、 姪の 美しく 熱に ほてった、 いまば 面影が あり

あり 見える。 併し 自分 死にた くても 死なれぬ。 もしもの 事が あったら 老い へた 兩親ゃ 妻子

どうなる だと ふと 滿 身の 血潮 一時に 頭に 漲る。 悶え 苦し さに 覺ぇ, f 唸り 聲を 出す と、

驚いて さし いたが 急いで 勝手の 方へ 行って 取り かへ て來 た。 時に 氷が してよ 冷える

見えて、 少し 心が 付いた が、 次第に 昇る 熱の めに、 纏まった 意識の 弱くな り、 それに

つれて 恐ろしい 病の 幻像 はもう 眼の 前に 寄せて 來る。 いつの 間に 自分と ものが 一人に

別れる。 二人で あるが どちらも 自分で ある。 元來ー つで あるべき ものが 無理に 二つに 引き わけ

られ、 それが 一緒にな らう/ \ 'と 悶え 苦しむ でも あり、 別れよう/ \- とする 恐ろしい

つに しょうくと 責め付けられる でも ある。 苦しみ はとても 名狀 が出來 ぬ。 やっと 其始

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末が 付いた s:- ふと 今度 手と 足と 胸と はす、 綿の 樣に柔 い、 しかも 紛の樣 重い もの

で、 しっかり 抑へ 付けられる。 凝き 度くても 體は 一寸 動かぬ。 共內 に,::: 分のから だは 深い

地の 底へ 靜に 何處迄 もと 運ばれて 行く。 もう 苦しく はない が、 非常に 心細い。 いつの 間に

暗い 何もない 穴の 様な 處へ來 居る。 自分の 外に 何物 もない。 何の 聞えぬ。 环に 響く

を燒く 熱に 湧く 血の 音と、 はしい 自分の 呼吸の みで ある。 何者と 知れぬ 威の 命令で、

自分 未来永劫 此の 闇の 巾に 封じ込められて しまったの だと ふ。 # 界の盡 きる 時が 來て も、

寸も 此の 閱の 外に 踏み出す こと 出来ぬ。 そしてい っ迄經 つても、 死ぬ ふこと 許されない。

浮世 花の香 常闇 の國に 永劫 生きて 名ば かりに 生きて 居な けれ なら ぬかと S と、

何とも 知れぬ 恐ろし さにから だが すくむ。 生涯の 來事ゃ 光景が、 妻の 様に 一. 時に 腦裹に 閃い

たと ふと それ 消えて、 圍る闇 深さ 奧行も 知れぬ。 どうかして 此處を 逃れ出たい。

一度 小春の R 見れば それでよ い。 踏んで 白雲 見れば それでよ い。 恐ろしい 闇、

ろしい 命と 悶えた 拍子に、 袋が すべって 眼が さめた。 怖ろ しい 破れて 平和な かな

Q 日影 は斜に 障子に さして 店る。 緣に 出した 花瓶の 菊の 影が うら 淋しく うつって、 今::! II

暮れ か、 つて 居る。 發汗劑 のき \ めか、 樣な滿 身の を、 乾いた タオルで 拭うて くれ

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時、 勝手の 方から 何も 知らぬ 子供が カタ コトと 唐紙 あけて 半分 出して にこく した-

自分 張りつ めた 心が 一時に ゆるむ 樣な氣 がして 淋しく 笑った が、 眼から は淚が 力なく

落ちた。 (明治 四十 二月、 ホトト ギス)

8

9

やもり 物語

取り止め もっかぬ 短夜の 物語で ある。

毎年 始めに、 程近い 植物園から わたりへ かけ、 ー體の 若葉の 梢が 茂り 黑み、 情ない {め 風が

遠い Q 揚げて 森の 香の 淸ぃ此 處等迄 吹き込んで 来る 頃になる と、 定まった 樣に腦 工合

悪くなる。 殺風景な 下宿の 庭に I ぉ陶 しく ひくす ぶった 八つ手 0 藤に、 夕闇の 慕が 出る! 3^

は签、 - 悪くなる ばかりで ある。 をす るの も懶 くつ まらない。 過ぎ去った 樣々 不幸 女々 しく

悔ん だり、 意氣 地の ない 今の 境遇に 愛想 をつ かすの も此 頃の 事で ある。 E 分の 様な 弱い

人間 は、 孟夏 を迎 ふる 强烈な 自然の 力に 服され ひとりでに こんな 持になる のかと へた

ある。 . こんな 厭な 時候に、 唯一 嬉し いのは、 ゆく 許り 降る 雨の を、 風呂に 行く 事で ある"

ひどい 道に 古靴 引きす つて 役所から ると、 .ゅ| れた 服もシ も晚ぎ 捨て 、汗 ふき、

物り もや

四疊 半の 敷に かけて、 森の 葉末、 庭の 苔の もとし 入る 雨の 聞く のが 先づ 嬉しい

塵埃に くすぶった 草木の 葉が はれて 美しい 濃綠に 返る 見る 自分の 腦の淘 緒に

めら たやうな 持が る。 そして じめ /\ Q 汚れ 淸淨な になり たくなる

で、 手拭 さげて 主婦の 處へ伞 下駄 出して ひに 行く。 主婦 はいつ も此 雨の ふるのに 風呂

です かと 聞く が、 自分 は.,.? 降る から 出掛ける ので ある。 出る と伞 をた k 雨の も、 高い

足駄 C- 踏み 心地 もよ い。

下宿から 風呂屋 町に 足らぬ」 繁陶 しい 程兩 側から 稱の蔽 重った 暗闇 阪を 降り して、

や-に 曲れば 瞎場 である。 Q 日に 浴客 少なく 靜で よい。 ひって 居る 中に もう がっく。

勞も 不平 流して 蘇った 様になって 歸る 暗闇 阪は漆 Q 様な 闇で ある。 阪の 中程に 街燈が 一-

束ない 光に 邊りを 照らして 居る。 片側の 大名 邸の 高い 堤の 上に 茂り 重る 获靑芒 0 上から、

芭蕉の 葉が わら はに 道へ 差し出て、 街燈の 下まで 垂れ 下り、 風の 大きな 黑ぃ 影が 一杯

1 る」 可也に 長い 此阪の 凸凹 道に 唯一 つの 火と はり C 茂りの さま は、 さへ 一種の

印象 を與 へる ので あるが、 自分の 引いた 街燈に 止った 疋の 小さい やもりで

つ.^」。 汚れ 某け ガラスに 付いた 樣に 細-おいから 弓形に 曲げた 身じろき もせぬ。 氣味

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惡く眞 白な g 一ら されて さながら Q 樣な 光の 中に 浮いて 居る。 銀の. 此前を かすめて 色蕉

をた、 く。 止って 氣を つけて 見る と、 頭に 突き出た 大きな は、 怪しい まなざしに 何物

呪うて 居る かと はれた。

始めて 此阪の やもり 見た 時、 自分 はふと こんな 出した。 自分が 十九 歳の 夏休みに

はれて 上京し 町の 宿屋に 二月ば かり 泊って 居た 時の 事で ある。 ある 雨の 夜、 他所 Q

宴會に 招かれて 更ける 迄歸ら す、 離れの 十疊 はしん として 瓶の たぎる 音の 冴える" 外に

近い 王臺の 森から 軒の を靜に そ、 雨の 昔も伦 しい。 所在な さに 側の 障子に もたせ

宿で 借りた 尺八 吹いて 居た。 一し きり 来る 雨の 足に」 m 敷から さす 灯が 映えて、 は金絲

光に 滿 つる。 恍惚と して 居た 時に 侵す 昔と 輕ぃ 庭下駄の 昔が 口に 止んで. c 浴衣

姿が 見えた。 女中のお 房が 雨戶 をし めに 来たので ある。 自分 下に 置いて 座敷に ひった。

女中 は緣 側の 戶を 一枚々々 としめ 行って 殘る 半ばで 止め、 暗い 庭の じっと見て 居る-

自分 父の 机の 前に 足を投 出した 儘で 無心に 車な 浴衣 姿 から $: 見上げ 時、

越しに チラと 振り向い たと 間に 戶を はたと しめた。 時の 女の 顏は 不思議な 美し さに 輝い

て、 涼しい 眼の 中に ゆる 樣な光 自分の 射る かと 思った が、 纏て 側に をつ いて、 ん„„ ^し

100

物り もや

くば 風呂 御召し あそば せと 云つ はもう 平生 房で あった。 女が 去つ 自分 つて

戶を あけて 見た。 霧の 様に 細かな 雨が 降って 居る。 何處 かで 轡蟲の 鳴く のが 靜な 闇に

く。 夢から 醒めた やうな 持で ある。 戸袋の すぐ 横に、 便所の 窓の 子から 朧な光 Q さすのに

をう つす と、 瘦せ たや もりが 一疋、 雨に ふとて か、 窓の 片側に いくの 字を畫 いて

居た。

後田 舍へ歸 つてから も、 再び 東京に 出た も、 一度 もや もりとい もの 見なかった が、

込の 下宿に 移って 後、 殘の或 夜の 雨に 此の 暗闇 阪の やもり 見つけた 時、 十九の 昔の

夜が ありく 出された。 あの 父が 再び 上京して つた 時の 話の 末に、 房と 女中 は緣

あって 或る 大尉と かの 妻に なった 聞いた。 事に よれば 同じ 東京に 居る かも 知れぬ。

玉の輿に のった とも はれよう が、 自分の 境遇 隨分變 つた。 假令 昔のお 房に 再會 する 樣な

事が あっても、 0 自分 年の 豪奢 を盡 した 父の 子と 誰れ はう。 やもり 見て

出す 運命の たよりな さとい 今更の 樣に 感じる。 そして 折角 風呂に 入って 輕く なった

腐らして しま ふので あった。

やもり 雨の ふる 夜毎に 暗闇 阪の 街燈に 出て 居る が、 いつ 何處 から 上る とも 知れぬ。 氣を 1

付けて おた にも 拘らす 一度 登る 姿 見た 事がない。 日の 暮れる 見えす、 はいつ

間に はれて ガラス に^り 付けた 樣に 身動きせぬ。 出が けに 見る ともう 居ない。 一夜

儘に 貼り付いて 居た のが 朝の 忽然と 消える Q ないかと ふ樣な 事を考 もお る"

暗闇 阪を 下りつ めた 角に 荒物屋が ある〕 此店は 丁度 自分が C 處に 移る 少し 前に 新しく 出来た

さう である。 毎日 通り りに Q 樣も 見れば、 乂阪の 方に 開いた nQ 竹垣から 家內 の摸樣 もい

つと なく 知られる。 主人 はもう 五十 越した、 人の ささうな 男で あるが、 主婦 之れ 五十

所で、 皮膚の 黄色い 何處 となく 險の あるい やな だと 始め 見た 時から 思った。 主人 夫婦の 外に

二十 ニニ Q 息子ら しい 弱さうな 脊の 高い 男と、 それから いつも 銀杏 返しに 結うた 十八 九の 娘と、

眞黑な 猫が 居る やうで あつ た。 亭主と 息子 々店の 品物に 溜ま 街道 はた いて

る。 主婦 娘は臺 所で 働いて 居る 裏口の 方から 見かける 事が あるが、 ー體 に何處 となく

氣な 此家內 のさ は、 日を經 るに うて 自分の 眼に 映る。 主婦 時々 鉢卷 をして 髮を亂 して、

何にも 苦し さう 洗濯な どして 居る 事が ある。 流し元で 洗って 居る 娘の 淋しい はいつ

つて 居る 樣に思 はれた。

一三 ヶ月 程た つて 息子の 額が 店に 見えぬ やうに なつ て、 店の を拂ふ 亭主 前よりも がし

102

もや

氣に兑 えたが、 それでも いつも 同じ やうな 柔和な つきで、 此男ハ みは E 落つ 梧葉の

知らぬ であった。

やもり はもう 見えぬ 様になった。 冬が 容捨 もな 迫って 來て木 枯が吹 募る 夜、 散歩の 歸り途

暗闇 近くな つた 時、 自分の 數間前 すぼめて 俯向いて 行く 銀杏 返しの 女が ある。 大抵の

早く 仕舞つ て、 寂れた 町に. 卷き立 ほこ 小き ざみ 行く 姿が 非常 心細げ

見えた。 ふから 來か \ つた 老婆と すれちがった 時、 二人 急に 止って、. 老婆の 方から、 「ホ

1、 しばらくだった ね、 もう 少し はい、 かえ」 聞く。 振りむ いたと 見る 荒物屋の 娘で あつ

た。 淋しい 笑を片 頼に 見せて、 入ろ 樣な聲 云って 居る 様で あつたが 凄まじい 木枯が 打消

してし まって、 老婆の 「ホ ー」 云った 寒さうな 聲と、 娘の 淋しかった 笑顔と かなしに 自分

心に しみ 込む 様であった。 暗闇 阪の 街燈 は木枯 中に 心細く 居た。

翌る 年の 春、 上野の 花が 散って 仕舞った 頃、 下げに 來た 宿の 主婦の はす 語りに、

下の 荒物屋の 娘が 亡くなつ たと をした。 今日 葬式が 濟ん だと ふ。 立の 優しい よい

であった が、 可哀相に お袋が 邪麼 で、 折角 夫婦仲の よかった 養子 を離緣 した。 體に 病身で あつ

は、 後段々 弱くな つて、 とう. (- 廿歲で こんな 事に なった 話して 聞かせた。 自分 は少

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前に 上野で 娘に うたこと 出した。 隣の 菓子屋の 主婦と 子供 二三 連れて、

花吹雪の 竹の 臺を步 いて 居た。 橫顏は 著しく せて il 居た が、 やがて 死ぬ 人と 見えなかった

である。

自分が 年中で 一番 厭な 時候が 再び 來て 暗闇 阪には やもり 見る やうに なった。 荒物屋の

通ったら、 雨戶を 明け 放して 明るい 座敷が 見える。 高く 釣った 蚊屋の 中に しょんぼり 坐って

居る 年と つた 主婦で、 れた髮 に鉢卷 をして 重い 病苦に むらしい。 亭主 傍に 坐って

でも 撫で、 居る ひで ある。 蚊屋の 裾に は黑 猫が 顏を 洗つ 居る。

やもりと 荒物屋に 何の もない が、 何物 様な 此阪の やもり 行き 通りに 見、 打ち

荒物屋の 不幸 見聞きす るに つけて、 恐ろしい {4^ 想が 悪夢の やうに ふ。 黑, すんだ 血潮の

色の 幻の 中に、 女の 顏ゃ、 死んだ 娘の 顏ゃ、 昔のお 房の 額が、 呀の息 吹く やもりの 姿と

ー緖に 巴の やうに ぐる/ \ めぐる。

二三 日經て 後の 夕方、 荒物屋の 座敷に 隣家の 誰れ 彼れ 大勢 集って 酌んで 居た。 疊屋も

來て 居る、 八百屋の 見える。 あかるい ラム プの光 人々 赤い 顔に 映えて 何となく 氣に見

える。 所では Q 菓子屋の 主婦が 忙が しさう 働いて 居る。 知らぬ 人が 見たら ひの 酒宴と

104

諭り もや

見える だら う。 しかし 病める 家の 主婦 前夜に 死んだ ので ある。 いま はと 時に、 死んだ

娘の 呼んだ とも ふ。

養子に 離れ、 娘に 妻に 取り されて、 形影 弔す るば かり Q 主人 は、 他所 目に 一向

悲し さう にも 見えす、 變らす 店の はたいて 居る。 所の 近所の 者な どが 交る 世話

をして 居る やうであった。 それから 間もなく 新しい 女が 店に 坐る 様になった。 下宿の 主婦 は、

屋には 若い 好い 後妻が たと 喜んで 話した。 新しい 主婦の 晴れ やかな 顏を 見て、 何とな

く此 店に 樓の 明るい 光が さす やうに 思うた。

今年の 夏、 荒物屋に 幼い 可愛い 顔が っ增 した。 心よ 晴れた 夕方な ど、 亭主 此の 幼兒を

大事 さう 抱いて 店先 あちこちして 居る。 近所の ぉ內 儀さん などが 通りが、 りに 兒を あやす と、

嬉し さうな 色が 父親の 柔和な 顔に 漲る。 女房 店で 團扇 をつ かひながら しげに 此樣を 見て 居る。

涼しい 店の 吹き、 軒に 吊した ラム プの笠 吹き、 見て 過ぐ 自分の 胸に 吹き

入る。

,;H 分の 境遇に 何の 變り もない。 雨が 降る 風呂に 行く。 C 街燈に 今でも やもり

居る が、 元の やうな 空想 はもう 起らぬ、 小さな 細長い 黑影は 平和な 灯影に 眠って 居る 樣に思

105

るので ある。 (明治 四十 十月、 ホ卜ト ギス)

106

カ子

障子の

今朝 妹と 姪と 國へ歸 るの 新橋 見送って 後、 なんだか 重荷 下した 様な 持に なつ

上野 行の 電車に つて 居る ので ある。 腰掛の 一番 後の 片隅に 寄り か、 つて 入口の 脇の ガラス

もたせ、 外套の 襟の 中に 埋る やうに なって 茫然と 往來を 眺めながら、 へる ともなく 此間

屮の出 來事を 出して 居る。

無病 息災 を賫物 やうに して 居た 妹婿の 田が ひがけない 重患に 罹って 病院に ひる。

かよわい つで 病人の 看護 もせねば ならす 世話の やける か、 へて 內の用 もせねば ならす、

見兼ねる やうな 窮境 を鄕 里に 報じて やつ 近親の 案外 冷淡で、 手紙で はいろ 體の好

云って 来ても 上京して 世話 をす もの はない。 もとより 里の 事情 知らぬ ではな

いが りに 薄情 だと 思つ ひどく 憤慨し 人非人の 樣に 篤つ 見た。 時には 此れ 畢竟 W

夫婦が あんまり 意氣 地がない から 親類 迄が 馬鹿にす るの だと りで 怒つ 見て, どうで もなる

い、 など \棄 鉢な を考へ もあった がさて 病人の 賴み少 有樣を 見聞き、 妹が うら 若い 胸に

大きな 心配 抱いて 途方に くれながら 懸命に 働いて 居る 見る と、 非常に 可哀相に

つて、 役所の 行き りに 立ち寄って 何彼と 世話 もし 慰めても やる。 妻と 下女と 交る/ \ 手傳

にやって 居た が、 入って 世話して 居る 瘤に さはる 事が 出来て、 もない 妹に 常り ちらす。

しかし 宅へ 歸っ て考 へる とそれ 非常に 氣の 毒に なって 矢も榍 もた まらなくなる。 こんな 工合で

不愉快な 送って 居る 內に 病人 次第に 惡く なって とう/ \> 亡くなって しまった。 病院から

取って 形ば かりで 葬式 をす ませ、 妹と 姪と 自宅に 引取る 迄の 苦勞を 今更の やうに 浮べ

兑る。

殺風景な 病室 粗末な 寢臺 上で 最期 G いた 人の 面影 忘れた ので もない、 秋雨の ふる

日に 場へ 行った 時の 佗しい 光景 起さぬ でもない が、 今の 持に それが 丁度 覺め

たばかりの 宵の 惡夢 様に はれる G である。

引取って も、 里と Q 交涉 やら 亡き人の 後始末 やらに 忙殺されて、 過ぎた 苦痛

勿論、 姪の 行末な G ゆる. (-考 へる 0 暇はなかった。 妻と 下女と 靜に暮 して

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落の

た處へ 急に 二人 も增 したの みなら ャ、 はい たづら^ りの 年頃で はあり、 家內は 始終 ゴタ

るば かりで 殆んど 何事 手に つかぬ やうな 有様であった。 それが どうやら 今日 迄で 一先 片付い

兎も角 國の 親類で 引取る 事に なった" それで 今朝 汽車が 出て しまって 改札口 引返す

時に、 なんだか 氣拔 がした 様に、 プラット フォ も輕く 停車場 出る { はよ 晴れて

快い 日影 隱す雲 もない。 久し 振に- 大氣 のよ 日曜で ある。 宅へ つて どうす ると あても

いので、 銀座 通り ぶら/ \> 歩き、 大店 Q ガラ 窓の 屮を靦 いて 見たり 雜誌屋 店先 あさって

見たり、 しばらく 殆んど 何事 忘れて おた。 橋から 電車に つて 此の 片隅へ 下してから

始めて 今朝の 別れ 起し、 それから それと 間中の 繰返して 見る。 薄情 冷酷と ふで

ない が、 苦い 鋭い 悲も 日經 てば n だけの 霞が か、 る。 電車の 窓から 日曜 Q 街の 人通り

をの どかに 見下して 居る 刻下の 自分が 通りの 義務 果してし まった、 間中からの

事が 段落をっげたと云ふだけの單純な滿足が心の底に動ぃて居る^Mじ、 過去の 憂苦 行末の

も吉野 紙を距 てた ぐら ゐに思 はれて、 何となく ろいだ 持に なって 居る。

すぐ ふの 腰掛に は會 社員ら しい 中年の 夫婦が 位の 可愛い 男の子 連れて 大方 團子 坂へ

行く だら う。 一は 此<;1 社員ら しい を何處 かで 見た 樣に 思った がつ 出せない、

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でも 時々 こちらの 顏を 見る c 細君 Q 子供の 帽子 を氣 にして 直して 居る が、 子供 は义 すぐに 1:

彌陀 にしゃく 上げる" 子供の はよ く兩 親に 似て 居る、 二人 C 丸で もがった 容貌が 其兒の 愛ら

しい 顔の 中です つかり 融和され てし まって どれ だけが 父親、 どれ だけが 母親のと はっかぬ。

Q 兩親を くらべ ると まるでち がった 二つの がどう 似通 つて 見える のが

思議で ある。 餘り兩 親に 似ないで 却ってよ に似て 居る 妹が 云った 出した。

妹婿 日曜 杯に はよ く家內 連れで 方々 遊びに 出た。 達者で 居たら 今日 あたり 屹度 團子 坂へ

行って 居る だら うと ふ。 一が 日曜で 家に 籠って I 曰して 居る 見て、 兄さん

うして さう ひだらう、 子供 だって あるで はなし、 さんに 時々 外のお 氣を吸 はせ 上げ

るが 、なと K つた 事, ある。 こんな 出して 無意味に 微笑して 居る。

0 子^ づれ は須田 町で 下りた。 跡へ 大きな 革袍を 抱へ 爺と 美術 校の 生徒が つて

前へ は滿 員の 客が 立ち塞が つてし まふ。 窮屈 さと 蒸された Q 氣息 とで 苦しくな つた。 上野へ

着く 待ち兼ねて 下りる。 內へ向 ふ人數 につれ ぶら 歩く。 ffi 人を乘 せた 自動車が

た、 ましく 馳け拔 ける ふから 紙細工の 帽子に した 手代ら しい 二三 連の 自轉 車が 來る。

乎に/ \ 紅葉の さげた 女學生 C 一群が 目につく。 M 食の は;、 取り崩されて 居る が、

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落の

G ー號 館から 四號 館の 邊は、 閉鎖した 儘で つて 居る。 はしみ 汚れ、 明り 取りの 硝子

處々 破れ 落ち か、 つて 煤けて 居る。 大方 ふるうた 櫻の 根に 取りく した 木材が 亂雜に 積み

上げられて、 壁土が. HI 散らばった 上に 落葉が 亂れて 居る。 模造 日本 なくなって

側の 半ば 崩れた 子供 等が 驅け 上り 驅け 下りて 遊んで 居る。 觀覽車 今は閬 として 鐵骨

のべ ンキも 剝げて 赤鏽が 吹き、 土臺 のた.^ 破れ こぼちて ンクリ トの 砂利が 喻み 出して

る。 殺風景と ふより 何となく 2^ ろに 荒れ果てた 景色で ある。

今年の 夫婦と 姪と 夜の 場へ 遊びに 來た 事が あった。 姪の 望む ま&に 一同で 觀覽

車に 乘り 高い 杉の 梢の 夜風に 吹かれた。 あの 時の 樂隊 の騷 がしい 喇^の はやし はま 耳に つて

居る。 そこらの 店へ ひって 休んだ 時には、 森の 中に ふる、 人影が ちらついて、 赤い 灯ゃ靑

吹く 涼しく、 妹婿が いつもの 地味な 浴衣 くつろげ 姪にから かひながら ムネ Q

いて 居た 姿が ありく 浮ぶ。 あの 時の 店の 跡な どももう たしかに とも 分らぬ。

ぎた 夜の さながらに 幅の 畫の樣 心に 描いて 見る。

逢曰 館の 前から 上野 奥へ 廻る 人通り は少 い。 森の 梢に 群れて 居た C 立ち 立つ

音が 淋しい 空に 引く。 今更ら しく 死んだ 悲しむ ので もな C 不幸 女々 しく むので

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もない が、 朝に 晩に 間の ない 煩に はれて 固く 乾いた C 中が 今日 C 小春 C 日影に 解けて 流れ

る樣 に、 何とい 意味 Q ない 悲哀の 影が ゆるんだ 心の奥底に 動く G であった」

宅へ つて 見る 用達しに 出たら しい。 下女 寸出迎 へたが すぐ 勝手へ 込んで もな

い。 今朝 あんなに 騒々 しかった 家內 はしん として りに である。 一は 側に 立った ま、

も^が す、 庭の 杉垣に i^- 日光 見て 居た が、 突然 譯の 分らぬ 淋し さに はれて 座敷へ ひつ

た。 机の 前に 坐って C 障子 見る と、 姪が いつ Q 間に 書した ので あらう、 筆太に 塗りつ

た覺 束ない 人形 Q 鎗が、 おどけた 額の 横から 兩手を 擴げて 居る。 何とい 罪のない だら うとし

ばらく 眺めて 居た が、 名狀の 出来ぬ 暗愁が 胸に こみあげて 來て、 外套の かくしに 入れた ま. -の拳

握りし めて 强く 下臂 をかん だ。

程近い 踏切 過ぎる 汽享の 響が して もとの 靜さ にかへ る。 はもう 處ら迄 行った かと

つて 手近い 旅行 案內を 取り上げて みた。 明治 四十 一年 一月、 ホトト ギス)

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今日 用達しに 出掛けた りに 久し振りで 根津の 藍染 通った。 親友の 田が 先年

下宿して 居た 荒物屋の 通った 時、 二階の 干に 青い 汚れた 毛布が 干して あって、 障子の 少し

開いた 中に 皴く ちゃに 吊した 袴が 見えて 居た" なんだかな つかしい やうな がした。 黑田 が此處

居た はま だ學 校に 居た 頃からで、 自分 殆んど 毎日の やうに 人した から 主婦と 古い 馴染

では あるが、 田が なくなつ てから 妙に 疎くな つてし まって、 今日 店に 人の 居なかった

却って 合せに 聲も かけすに 通り過ぎた。 併し 家の 二階 何となくな つかしい、 昔の 香が

る。 二階と 言って 別に 眺望が 佳い ので もなければ、 敷が 綺麗 だとい ふ譯 でもない。 前に はコケ

ラ葺 や、 古い 瓦屋根に 草の 茂った 長屋が 不規則に 並んで、 ふに 洗濯屋の 物干が 美しい

服界を 遮ぎ る。 Q 方に 少し 許り 地が あって、 其の 上に ヶ岡 c,w 宿舍が 聳えて 見える。

春の 頃な 夕日が 鄕臺に 沈んで 赤い 空に 此の 高い 建物が 紫色に 浮き出して 見える 時な は、

がー つの 眺めに なった 位の ものである。 しかし 間近く 上野 ひかへ 居る だけに、 何處か 明る

花やかな もあった。 花の 時分な どになる 何となく 春の どよ みが 森の 聞え 窓の

しい 人の 群が 通る もあった。 欄干に もたれて かしんみ りした 話で もして 居る 時、 程近い 時の

鐘が 重々 しいうな 傅へ/^ 遠くに 消える こと もあった。

體黑 W 子供の 時分から 逆境に-育って 隨分 苦しい をして 來た男 だけに 問に する 考へ

ふけて 居て、 深い 眼の 底から 世の中 横に 睨んだ 様な があった。 察の 鋭い そしてい つも

見たがる 癖が ある ので、 人から 寧ろ かられて 居た 爲か、 平生 親しく 往来す 友も少

かった。 其の ひねくれた 樣な處 妙に 自分と 氣が 合った 不思議で ある。 自分 はどう かかう

世間 並の 坊ちゃんで 成人し、 田の 様な 勞の味 をな めた もない。 田の 昔話 小說の 樣な氣

聞いて 居た。 月々 里から 學資を 貰って 金の 心配 もな し、 此上 氣樂な 境遇はなかった 害で ある

が、 若い 心に は氣樂 無事 だけで 物足りなかった。 きまり 切った 日々 C 課業 をして 暇な時

意味に 過す 様な 事が 寧ろ 堪へ 難い 苦痛であった。 かしら 絶え. 刺戟が 欲しい。 快樂と

苦痛と 名の 付く 樣な もので なく、 何んだ 分らぬ:::: 遠い 霞の 奥に 望んで、 それ をつ

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まへ ようつ かまへ ようとして 居た。 小說 を讀ん だり 白馬 會を 見に 行ったり 义昔 樂會を 聞きに 行つ

たりして 居る 內には 求めて 居る 物に 近づいた 樣な氣 がする もあった が、 Q 前の 物に Q

届かぬ 樣な悶 かしい 感じが 殘る 許りで ある。 こんな 話す と黑田 はいつ 快く 笑って 「靑 春の

贅澤 J 出来る 時に して 藍く さと: =11 つた。 半日 も!^ 宿に 籠って 厭きた 窒内、 厭きた 見て

居る と堪 へられ なくなって 出す。 ffl 誘うて 當も なく 歩く,) > 咲く 花に 人の 集る 處を 廻ったり

殊更に 淋しい 墓場 尋ね 歩いたり する。 W 之れ 「浮世の. 5?」 かいで 歩く だと: W つて

居た。 一緒に 歩いて 居る と、 見る 聞く 物黑 田が C 奇警な 觀察を 下す のでつ まらぬ 物が 生きて

來る。 途上 Q 大きな 小說 中の 人物に なって 路傍 C 石塊に 意味が 出來 る。 は文擧 者に なつ

たらい 、だら うと 自分 言った あるが、 黑田は 醫科を やって 居た。

あの 頃よ 話の種に なった 伊太利 人が ある。 名をヂ ュセ ッボ. ルツ サナ とかいって、 田の 宿

裏手に 小さな 借りて 何處 かの 語學 校と かへ 通って 居た。 細君 日本人で 子供が 二人、 末の

はま だほん 赤ん坊であった。 下女 置かす に、 W 素と ふより 寧ろ 極めて しい 暮し をして

居た。 日本へ 來て 居る 画人に 珍しい 等な 暮し をして 居た が、 しかし 月給 可也 山に 取つ

居る とい 噂であった。 H 本へ 来て 居る こしら へる めだから、 なんでも 出來る だけ

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儉約 する Q です 彼. HI に^した さう である。

田のお 二階の 側に 立って 見る と、 ゾぉ 0 越し 伊太利 人の 家の 庭から 緣側 見下 される

あるかな Q 庭に、 植木と いったら かの 見すぼらし いのが 株^の 陰に ある 許りで、

草花の 一つ さへ な. い。 今頃なら 踏み荒した 土に 紙屑 ゃ布片 などが 淺猿 しく 散らばり

りついて 居る。 晴れた 日に 一面に おしめ シャツの 様な 干す、 軒ドに は罐詰 C やら

緒の 切れた 泥塗れの F 駄な どが ころがって 居る。 ..g 日に は鎵 側に 乳母車が あがって、 下駄

が. 垂れに 濡れて 居る。 家の 見えぬ がきた なさ 想像が 出来る。 細君から して 隨分 此んな

事に 無頓着な だと 見える。 どうせ あんな 異人さん のお かみさんになる 位の だからと 下宿の

主婦 は說 明して 居た さうな。 しかし 細君 極く 大人しい 好人物 だとい ふので 近所の 受け は餘り

惡ぃ 方ではなかった らしい。

主人の ヂュ セッボ 近所で はヂュ ちゃんと 呼んで 居た。 出入の 八百屋が 出してから

みんな ヂュ ちゃんと いふ になった さう である。 自分 々往来で 自轉 車に つて 行く

かけた 事が ある。 大きな からだ 猫背に 曲げて 氣な顏 をして いつでも 非常に 急いで 居る。 眉の

間に 深い をよ せ、 血眼に なつ 見つめて けって 居る さま は餓 ゑた 熊廳が 小雀 追ふ樣

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だと 田が 評した 事が ある。 休日な どに はよ く緣 側の 日向で 赤ん坊 をす かして 居る。 上衣 を晚ぃ

でシャ ばかりの 胸に 子供 をシッ カリ 抱いて、 かしな 聲を 出しながら 狹ぃ緣 何遍で 行つ

たり 来たりす る。 そんな 時で 恐ろしく 面目で 夢.^ 一心 不亂 になって 居る 樣に 見える。 こち

らの 二階で 話し がして 居ても 少しも H くれす、 根氣 よく 同じ 樣な聲 出して 子供 ゆすぶつ

居る。 倂し 子供が 可愛くて ならぬ とい 風で もない。 心に 何事 かに 凝り固まって 世間の

何處を 吹く 知る 餘裕 がない といった である。 自分 此んな 場合 見かける となんだ

笑し くも あり 叉氣の 毒な がした。 黑田は あれ 此の世界に 溜める 以外 何物 もない 憐れな

だと 言って 居た。 だけ 安いと いふので 石油の を自轉 車に ぶらさげ、 方まで ひに

かける とい 事であった。 八百屋な どが ると 自分で 所へ 出かけて やかましく 値切り 切り

する。 大根 を齒で 喰ひ缺 いて 見て 此れ はいけ ない 云って 返したり する。 焚の 事で 細君に

はやらせないで 獨り で臺 所で ガチャ つかせ ながら 居た。

尋ねたり、 墓を訪 うたり、 美しい 夢ば かり 見て 居た あの 頃の. e: 分に は、 此の 伊太利

黄泉の 闇に 掘って 居る 亡者 かの 様に はれた。 兎に角 種侮蔑の念^^抑へ る譯に行

かなかった。 日露 ゆの 時分に 何でも 露西亜の 方に 同情して 日本の 連捷を 呪-ふやうな 口吻が

117

つたと かで 或は 露探ぢ やない かとい た。 こんな 事で どく 近所 じをHli^^ くし

うだが、 細君 Q 人物と 子供の 可愛らしい Q とで 幾分 融和して 居たら しい。 子供 髮が黑 くて

色が^:くて美しぃ。 上の 男の子 あの 四つ 位で はヱン リコと かいふ さう だが、 當り前 0 和服

着て 近所の 子供と 遊んで 居る G 兌て 混血 兒と思 はれぬ 様であった" m 此兒を 大變に

愛が つて チャンく 親しんで 居た。 父親が こしら あげた 暁に 此兒の 運命 はどうなる

だら うかと 話し合った ある。

ヂュ セッボ Q 時なら ぬ-: 風が 隣家 させ 珍しく ない。 アクセントの

かしい 伊太利 人の 聲が 次第に 高くなる。 そんな 細君の こと をァ ナタ がくと ふ聲が 特別に

立って 聞え る。 嵐が 絕頂 になって、 おしま ひに 細君の 唆り 泣きが 聞え 出す 6 に默 つてし まふ-

そして 赤ん坊 抱いて 下駄ば きで 庭へ 出る。 憤怒、 悲哀、 痛苦 まとめに した 様な 曇らせ

て、 不安ら しく あちこち 歩き 廻る ので ある。 異鄕の 空に 語る もない 淋し さ伦 しさから 氣ま

ぐれに 持へ た,; 1^ 庭に 憂き 雲が 立って 心が 騒ぐ Q だら う。 こんな 時には かたくなな ヂュ ッボの

も、 越えて 逄な 伊太利の 彼方、 オレン ヂの 花^く 野に 通うて 覉旅ひ 思が 動く だら うと

やった ある。 細君 珍しい おとなしい 女で、 ロ喧 ましい 夫に しづく 樣は 寧ろ 人の 同情

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位で、 っひぞ 近所 なぞで 愚痴 こぼした もない。 つて Q つた (豕 庭の 成立に 就いても

君の 元の 身分に 就いても、 何事 確な 聞かれなかった。 今は黑 W 地方へ 行って しまって

Q をす 機會も 絶えた。

こんな 色々 出して つて ると 宅の きたない のが 今更の 樣に 付く。 よごれた 疊破

れた 建具 はして 居た が、 急に ひついて 書いた、 ク、 振りで 田に こんな 書い

やった。

…… 東京 雪が ふった。 千駄 木の 泥濘 はま 乾かぬ。 之れ 乾く 西風が 捲く。 泥に

引きす り、 此の 西風に ふだけ でも 頰が 落ちて 眼が 血走る。 東京 はせ ちがら い。

舍が返 だと 言って 来た。 此頃は 定めて 益、、 肥ったら う。 毎日 同じ 帽子 同じ 洋服で 同じ

やりに 出て 同じ 刻限に 家に つて 食って 寢る。 「靑 春の 贅澤」 はもう 止した。 「浮世 Q 匂」

かぐ もない。 障子 風が もり、 疊は毛 立って 居る。 霜柱に あれた 飾る Q 子供の

位な もの だ。 頃の 何だか 段々 に變 つて 來る。 美しい 物の 影が 次第に 心から 消えて 行く。

金が. ほしくなる。 かって 二階から 見下した ヂュ セッポ にいつ Q 間に 似て 來る やう だ。 墮落 か、

向上 か。 どち だか 分らない。 三月 十四日

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ンで 細字で へ./ \- 書いて しまったの 懐に して 表の ポストに 人れ 出た。 そして 書いた

心で もう 一遍 繰り返しながら、 此れ 護んだ 時に 田の 苦い 顔に 浮ぶべき 微笑 胸に 描いた。

(明治 四十 四月、 ホトト ギス)

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いくつ Q 時であった かたし かに は覺 えぬ が、 自分が 小さい 0 事で ある。 宅の 流れて

濁った 堀川に 沿うて 上る 左に折れて 城の 裾の 茂みに 分け入る。 その 被に 向うた

此方の 岸に 廣ぃ空 地が あった。 維新 前に Q 調練 場であった のが、 頃は縣 まの 所屬 になった

ま、 地に なって ゐた。 一面の 砂地に 草が まだらに 茂り 處々 晝顏が あいて ゐた。 近邊

子供 此處を 好い 遊び場 所に して G 破れ 出入 して 居た 咎める もなかつ た。 Q 夕方

は銘々 長い 竹竿 肩に して 空地へ 出かける。 何處 からと もな く澤 山の 蝙蝠が を^ ひに 出て、

低く 飛び はすの を、 竹竿 振うて 叩き 落す Q である。 風の ない 煙った 樣な 宵闇に、 蝙幅

呼ぶ 聲が對 岸の 城の 石垣に 反響して 暗い 川上に 消えて 行く。 「蝙蝠 來ぃ. - 水吞 ましよ。 そっち

水に がい ぞ」 あちらこちらに がして 時々 竹竿の {4- 切る 力ない 音が 鳴って ゐる。

賑やかな やうで 知らぬ 淋し さが 籠って ゐる。 幅の 出さ かるの 宵の口で、 くなる に從っ

減り 二つ 減り 何處 となく 消える 樣に居 なくなつ てし まふ。 すると 子供 散り/ \ に歸っ

行く。 はしん として 死んだ 樣な空 氣が廣 鎖して しま ふので ある。 いっか 塒に 迷うた 蝈蝠

追うて 地の 行った が、 ふと 氣が 付いて 見る あたりに 誰も 居ぬ。 仲間 も歸 つた か聲も

せぬ。 城の 石垣の に鬆 然と た禝が 闇の ろしく がって 汀の 茂み

眞黑に 眠って 25 る。 あげる 草の 露が ひやり とする。 名狀の 出來ぬ 暗い 恐ろしい 感じに

れて 夢中に^ 出して 歸っ 來た事 もあった。 場の 片隅に 高く 上げた 堤の 様な ものが

あった。 自分 此れ 天文 臺と 名け てゐ たが、 實は 昔の 射的場の 避けの であった ので 時々

中から 紛玉 掘り出す 事が つた。 年上の 子供 此の 砂山に ょぢ登 つて はすべ 落ち る。

時々 戰爭 ごっこ もやった。 賊軍が 文臺の 上に 軍旗 守って 居る 官軍が 攻め 登る。 自分 もこの

軍勢の 中に はる 0 であった が、 どうしても 此の 砂山の 頂き 登る 事が 出来なかった。 いつもよ

自分 いぢめ 年上の もな 駅け 上って 上から 弱蟲と 嘲る。 「早く 登って 來ぃ、 此處

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から 東京 見える よ」 など、 云って 笑った。 口惜しい ので 懸命に 登り かける と、 足元から

れ、 草と 賴む 晝顏は 脆く ちぎれて すべりおちる。 砂山の 上から 賊軍が 打って 笑うた。 しか

しどうしても 登り 度い とい 一念 幼い 胸に 巢を くうた。 夢に 此の 天文 臺に 登り かけて

うしても 登れす、 藻搔 いて 泣き、 母に 起され 蒲團の 上に 坐って まだ 泣いた さへ あった。 「お前

はま 小さい から 登れない が、 今に 大きくな つたら 登れます よ」 母が 慰めて くれた。 自分

一家 は國を 離れて 都へ 出た。 清の ない?;^ 心に 鄕の事 次第に 消えて 顔の 天文

もた V 夢の やうな 留める ばかりであった。 一十 年後の 今日 鄕へ歸 つて 見る 此の 場に

小學 校が 立派に つて ゐる。 大きくな たら 登れ た: 大文臺 取り崩されても

もない。 たぐ 昔の 傣を 留めて なつかし いのは 放課後の 庭に 遊んで 居る 子供 等の 勇まし さと、

根元 にかれ ぐに ゆ、 た晝顏 花で ある。

月見草

高等. 校の 寄宿 ひった 夏の 末の 事で ある。 明け^いと いふの 寄宿 二階に 寢て 始め

て覺 えた 1 一一 葉で ある。 相の 惡ぃ 隣の 男に 踏みつけられて さます と、 時计は a 過ぎた ばか ^

だのに、 はしら/ \- 半分 上げた 寢室 Q ガラス 窓に 明け か,^ つて、 覺め 切らぬ 眼に 釣り

ベた 蚊帳の 新しい Q 古い 萌黄色が Q やうで ある。 窓の 下框 には扁 柏の 高い 稍が 見えて、

今眼覺 めた 様な 裏山が 観いて ゐる。 儘に、 そっと 拔け 出して 運動場へ 下りる と、 廣ぃ

芝生 浴びて、 素足につつ かけた 兵隊 を-濡らす。 ばったが 驚いて 出す 羽音 快い。

圍りは 松原が 取り いて、 隅の 處々 月見草が 孕、 き亂 れてゐ た。 踏み 散らして 廣ぃ

運動場 りする 內に、 赤い 日影が 時計 臺を 染めて 所の 1:: 威勢よ 軋り 始める ので あつ

た。 自分 妙な 夢を見た。 丁度 運動場の やうで、 もっと 廣ぃ 草原 Q 屮を朧 月光 浴び

現と もな く彷 Sii うて 居た。 淡い 夜霧が 草の葉 末に 下りて 1: iUi に. 5J まれた やうで ある。

ともなく 草花 Q やうな 香が する Q 匂と 知れぬ。 許から ra 方に かけて 一面に 月見草 C

t 、き 連なって ゐる。 自分と 並んで 若い 女が 歩いて 居る が、 世の 人と はれぬ 蒼. C 額の

月の 受けて つて 歩いて る。 鼠色 着物 Q 長く 裾に 月見草が 美しく

染め出されて ゐた。 どうして こんな 夢を見た もの かそれ は今考 へても 分らぬ。 夢が めて 見る

ガラス 窓が Q かに.; r んで、 蟲の 音が 聞え てゐ た。 汗が 出て 居て 胸が しぼる 様な 持であった G

ともなく: 離れ 運動場 下りて 月見草 の唤 いて る邊 を:^ なく こちと 歩いた。

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詰物

毎朝 様に 運動場 出た が、 此れ迄 處を步 いた 時の 様な 爽快な しなくな た。

寧ろ 非常に 淋しい 感じば かりして、 頃から 自分 次第に 吾と 吾が 削る 様な、 {4! 想に

耽る やうに なって しまった。 自分が 不治の病 得た のも此 頃の 事であった。

三年の 下宿して 居た 住の は黑髮 山の 奥まった である。 後ろ 狭い 裏庭で、

はもう すぐに 崖に なって 大木 Q 茂りが 蔽ひ 重なって ゐる。 傾く 年の 落葉 木實と 一緒に 鹎の鳴

聲も 軒端に 降らせた。 自分 Q 借りて ゐた離 室から G 門へ 出入に 是非共 裏庭 通らねば

らぬ" 庭に 臨んだ 座敷の 外れに 三疊敷 許りの 突き出た 小窒 があって、 洒落れ 丸窓が あった。

處は 宿の 娘の 居間と 極って ゐて、 丸窓の 障子 夏も閉 ぢられ てあつた。 r 度此 部屋 Q 上に 大き

栗の 木が あって、 初の 試驗 前の 調べが がしくなる 頃になる と、 黄色い Q やうな 花を屋

根から 庭へ 一面に 降らせた。 落ちた 朽ち 腐れて 一種 甘い やうな 強い-^ 氣が小 庭に ちる。

等に 多い 大きな 蜩が勢 ひの よい 音を立て 、此れに 集まって 居る。 カ强ぃ 自然の 旺盛な 氣が腦

ふやう はれた。 花の 散る 窓の 內には 内氣な 娘が 垂れ 籠め 讀物ゃ 針仕事の 稽古 をして

居る のであった。 自分が 家に はじめて 来た ころ はやう 十四 五位で 割に 結うた 垂ら

せて ゐた。 色の 黑ぃ、 顏立も 美しい とい ふので はない 眼の 涼しい 何處か 可愛 氣な兒 であった。

主人 夫婦の 間に 年老っても 子が 無い ので、 親類の 子供 貰って 育て」 居た ので ある。 娘の 外に

大きな 三毛猫が るば かりで 寧ろ 淋しい 家庭であった。 自分 はいつ n な變 人と はれて ゐた

位で、 宿の 者と 親しい 無駄話 をす 滅多になければ、 娘に もやさし かけた こと もな

かった。 毎日の 食事時に は此 娘が 駒下駄の させて へに 来る。 土地の 訛った 言葉で 「御飯お

上がん なさい まっせ」 捨て k すた- つて 行く。 初めは ほんの 子供の やうに 思って ゐた

夏々々 省して 來る; 母に、 何處 となく 大人び て來 るの 自分の 眼に もよ :13- えた。 卒業 試驗

ii- 日、 灯と もし 頃、 復習に 飽きて C 緣側へ 出たら 栗の 花の香 馴れた 身に もしむ

であった。 主家の 前の 込の 中に 娘が. つぼい 着物に 赤い 帶を しめて 抱いて 立って 居た。

分の 見て いつにない 顏を 赤く したら しい G 薄暗い 巾に 自分に 分った。 そして まともに

見つめて 不思議な 笑顔 を;^ したが、 物に はれ \ ^もした 樣に 座敷の 方に 込んで 行った。

限りに 自分 は此 土地 去つ 東京に 出た が、 翌年の 初め 殆ど 忘れて 居た 住の 家から

紙が 屈いた. - 娘が 書いた Q らしかった。 年賀 C 他に 便り 聞かせた もなかつ たが、 どう W

126

語滅

うた もの か、 細々 Q 模様 知らせて よこした。 ^!;:分の元借りてゐた離窒は其後誰も下宿し

居ない さう である。 東京と いふ 處は 定めて 好い であらう。 生に 行って 見たい とい

やうな 書いて あった。 別に 何とい もない が何處 となく かし いのは 若い 人の だか

であらう。 一番お しま ひに 栗の 候。 やがて 散り 候と あった。 名前 母親の 名が 曰い

てあつた。 .

小學 時代に 一番 ひな 學科は 算術であった。 いつでも 算術の 數が惡 いので 兩親は 心配して

學の 先生 頼んで 夏休み 先生の 宅へ ひに 行く 事に なった。 宅から 先生の 五町 ある。

宅の 裏門 出て 小川に 沿うて 少し 行く づれへ 出る、 そこから 先生の 家の 高い 松が 邊の藁

屋根 ゃ植 込の 上に 聳えて 見える。 此れに 花が から 間もなく 絡んで 美しい。 毎日 前に

から 注意され ていやくながら 出て 行く。 裏の 小川に 美しい 藻が 澄んだ水 底に うねり 打って

れてゐ る。 を小鲋 0 群が 白い 光らせて 時々 通る。 子供 等が 丸裸の 胸に 塗って

7

小川へ 入って チヤく やって 居る。 附木 C を-仕掛けて 居る あれば、 崖^に つて ^

れて 行く ある。 自分 羨し をお 沿 ひの 岸の をむ しり 乍ら 石盤 か.^ 先生

家へ 急ぐ。 寒竹の 生籬 をめ ぐらした 冠木門 ひると、 玄關の 脇の 评には を. 敷き 並べた 上に

よく 干して あった。 玄關 から 內をハ ふと C 黑ぃ奧 さんが 出て 來て 「暑い のによう 精が

出ます ねえ」 といって 座敷へ 導く。 綺麗に 掃除の いた 庭に 臨んだ 緣惻 近く、 低い 出して

れる" 先生が 出て 米て、 つて 床の間の 本棚から 算術の 例題 出して くれる。 横に 長い 黄表紙

刷の 古い 本であった。 「甲乙 一人の 旅人 あり、 一時間 歩み 歩む…

;」 といった 樣な題 讀んで 意味 講義して 聞かせて、 これ やって 御覽 とい はれる。 先生

側へ 出て 欠伸 をしたり 勝手 Q 方へ 行って 大きな 聲で 奥さんと をしたり して 居る。 自分

前に 置いて 石盤の 上で 石筆 をコ ッく いはせ て考 へる。 Q 緣側の 軒下に 投網が 釣り下げ

てあつて、 押の 様な ものに 釣竿が 山掛けて ある。 何時間で 乙の 旅人が 旅人に 着く

とい 事が どうしても 分らぬ、 へて 居る 頭が 熱くなる、 汗が 坐って 居る 脚に にじみ 出て、

物の ひっつく のが 持が 悪い。 抑へ 見る と、 松の 高い 幹に は眞 赤な 宵の 花が 熱さ

うに いてなる。 よい 時分に 先生が 出て 來て 「どう だ、 六ケ しいか、 ドレ」 といって 自分の 前へ

坐る"」 羅紗 切れ 丸めた 石盤 拭きで 隅から隅まで 一度 拭いて そろく r 寧に 明して くれる。

128

わかった かくと をお して 聞かれる 大方 それが よく 分らぬ ので 妙に 悲しかった。 俯向い

居る 水湊が 自然に 垂れ か.^ つて るの じっと 堪へ 居る、 いよ/.. - 落ちさう になる

つてす、 上げる、 これ つらかった。 飯時が 近くなる ので、 勝手の 方で m- 鉢の 音が したり、

を燒く 句が したりす る。 腹の 減る つらかった。 繰り返して へて くれても、 結局 あまりよ

分らぬ 見る と、 先生 悲し さうな 聲を 少し 高く する ことがあった。 それが 妙に 悲し かつ

た。 「もうよ ろしい、 明日お いで」 はれる 日の 務が鬼 すんだ やうな がして

急ぎで つて 来た。 宅で 何も 知らぬ 母が 色々 涼しい 御馳走 こしら へて 待って 居て、 だらけ

の顏を 冷水で 淸め、 ちゃほや される のが 妙に 悲しかった。

晴れ 上って 急に 暑くな つた。 朝から 手紙 一通 書いた ばかりで をす る元氣 もない。 何遍も

前へ 坐って 見る が、 きに 苦しくな つてつ いね そべ つてし まふ。 時々 涼しい 風が 來て 軒の ガラ

風鈴が 鳴る。 床の 前に は幌 蚊帳の 中に 俊坊が 顏を眞 赤に して 枕を脫 して うつむきに 寢て 居る。

側へ 出て 見る はもう 半分 陰に なって、 陰と 日向の 蟻が うろ して 入して 居る。

129

上田の 家から 貰って 來たダ リア はどうし たもの 少し 出し かけた 儘で 大きく ならぬ。

袋の 前に 大きな 廣葉を 仲した 笆蕉の 中の 株に 今年 花が-^ いた。 大きな 厚い 花瓣が 三つ 四つ

いた 許りで、 とうく 開き 切ら, f 朽ちて しま ふの か、 もう 少し 萎び か、 つた やうで ある。 蟻が

二三 匹た かって 居る。 俊坊が 急に 泣き出し たから いて 見る 蚊帳の 中に 坐って 手足 投げ出し

泣いて 居る。 勝手から 妻が 飛んで くる。 坊は 牛^の 壜を、 投げ出した 膝の 上で 自分に 抱へ

首から 呼吸 もっかす ごく,/ \飮 む。 淚で くしゃ. (- になった 眼で 親の 等分に 眺めながら

んで 居る。 飮ん でし まふと 出した 樣に 泣き出す。 まだ 眼が めきらぬ 見える。 は俊坊

負ぶ つて 側に 立つ。 「芭蕉の 花、 坊や 芭蕉の 花が^ きました よ、 それ、 大きな 花で せう、

生ります よ、 あの 實は 食べられない かしら。」 坊は 泣き止んで 芭蕉の 指して r モ、 く」

とい ふ。 「芭蕉 が^くと それき 枯れて しま ふって 父ち やま、 當?」 「さうよ、 だが

花が かないでも 死んで 仕舞 ふね」 といったら 「マ ァ」 といった きり ゆすぶって

る。 坊が眞 をして 「マ ァ」 とい ふ。 二人で 笑ったら 坊も 一緒に 笑った。 そして 芭蕉の

して r く」 といった。

130

夏の 山路 旅した 時の 事で ある。 峠を越してから 急に 風が 絡え 蒸し暑くな つた。 狭い 谷間に

沿うて 段々 並んだ 田の 緣を縫 小徑に は、 蜻蜓の 羽根が ぎら くして、 時々 蛇が 手から

出す。 蔽ふ黑 すんだ 空に 折々 白雲が 通り過ぎ るが、 それ あちこちの 峯に 藍色の

引いて 通る ばかりで ある。 咽喉が いて 堪へ 難い。 道端の 田の 緣に小 溝が 流れて るが、 金氣

を帶 びた 水の面 蒼い 張って 鈍い 照り返して ゐる。 行く 內に、 片側の 茂みの 奥から 徑を

横って 田に 落つ る淸 水の 細い 流れ 見つけた 時は譯 もな 嬉しかった。 すぐに 草鞋の ま.^

したら 涼し さが 身にしみた。 道の 脇に 少し 入る と、 此處 だけ 特別に ゃ播が こん もりと 黑く

茂って 居る。 苔は濕 つて 蟹が 這うて 居る。 崖から しみ 出る 美しい 羊齒の 葉末から 滴って 下の

岩の 窪みに たまり、 つた 溢れて 苔の をく ぐって 流れる。 小さい 柄杓が 浮いた \ t.

たれて 居る。 自分 柄: £ にか じりつく やうに して、 旨い 冷い はらわた にしむ 味うた。

離れた 崖の 下に 株の 大きな 野薔薇が あって 純白な 花が 唆き 亂れ てゐ る。 自分 近寄って 強い

薰りを 嗅いで 小さい 折り 取った。 人の 氣は ひがす るので ふと 見る と、 今迄 ちっとも 氣が 付か

131

なかった が、 茂みの 陰に 柴刈りの 女が 休んで 居た。 背負うた 柴を 崖に もたせて 脚胖の 足を投 2

3

出した ま、 じっと 此方 見て 居た。 あまり ひがけ もなかつ たので 驚いて 見返した。 繼ぎ はぎ

着物 かで 繩の 帶を しめ 居る。 白い 手拭 深に かぶつ 下から 黑髮が 額に 垂れ k

居る。 ひも かけす 美しい であった。 都で 見る ことの 出來ぬ 健全な 顔色 少し H に堯 けて

一層 美しい。 人に 臆せぬ 黑ぃ隨 まともに 見られた 時、 自分 何んだ 咎められ たやうな がし .

た。 はす 意氣 地の ない 辭儀を つして 此處を 出た。 輝が 鳴いて 蒸し暑 さは 烈し い。

つて 來た 野薔薇 かぎ 乍ら 二三 行く と、 ふから 柴を 負うた 若者が 1 上って 來た。 身の 丈に

餘る柴 負うての そりく あるいて 來た。 逞しい 赤黑ぃ 顔に 鉢卷 をき つくしめ て、 腰に 研ぎす

ました 鎌が 光って 居る。 時に 「どうも 邪魔 さまで」 といって 自分の 顏を ちらと 見た。

ばらく して 振り返って 見たら、 若者 はもう 水の 近く 上って 居た が、 ふで 板り かへ つて

見た。 自分 何と いふ なしに 手に 持つ 居た 野薔薇 道端に 捨て &行 手の 淸水 と^

歩いた。

山の

まだ 小學 校に 通った 頃、 n 比蟲を 集める 事が 友達 仲間で 流行った。 自分 母に ねだって 蚊帳の

たので 蟲網を 作って 貰って、 土用の 日盛りに 恐れす、 此れ 肩に かけて 毎日の 樣に蟲 捕り

出かけた。 ゃ甲蟲 類の 一番 山に 棲んで 居る 山の あちこちと 永い 日を暮 した。 二の

三の 丸の 草原に 珍しい やばった 夥しい。 少し 茂みに 入る 樹木の 幹に さまぐ 甲蟲が

見つかる。 玉蟲、 こがね 蟲、 搗蟲の 種類が かすく 居た。 强ぃ 草木の 香に むせながら、

どらせ ながら んな蟲 ねらって 歩いた。 捕って 來た蟲 埶一湯 樟腦で 殺して 菓子 標本 箱へ

綺麗に 並べた。 さう して 此の 0 數の增 すの が樂 しみであった。 捕りから つて ると、 から

だは 浴びた やうに なり、 火の 様であった。 どうして あんなに 好きであった らうと 母が

今でも 昔話の つに へる。 を經て 面白い 事に も出會 うたが、 あの 珍しい 蟲を 見付けて 捕へ

時の やうな 鋭い 喜び 稀で ある。 今で 奥の 茂み れた朽 出す 事が

るので ある。 いっか 山の すっと 据のぉ 濠に 臨んだ 暗い 茂みに ひったら、 株の 大きな

木が あって 桃色が \ つた 花が 一面に うて 居た。 散った 風に ふかれて、 、汀に 朽ち 沈んだ

船に 美しく 散らばって ゐた。 此樹の は處々 蟲の食 入った 穴が あって、 穴の 口に 細い 木屑

が蟲の 糞と 共に 零れ i つて 一種の 氣が鼻 襲うた。 樹の 幹の 高い 11; に、 大きな 見事な 兜蟲が

133

いかめしい 立て \止 まって 居る 見付けた 嬉しかった。 自分の 標本 箱に はま 蟲の

よいの つもなかった ので、 胸を鍚 かして 上げた。 少し 網が 届き 兼ね たがやう 首尾よ

捕れた ので、 腰に つせ 居た 籠に 急いで 入れて、 包み 切れぬ 喜び をいだ いて 出た。 三の

丸の 石段の 下迄來 ると、 ふから 美しい 蝙蝠傘 さした 女が 子供の 引いて 樹陰 傳ひく

るのに 逢うた。 町の 良い 家の 妻女であった らう。 持った 手に 藥瓶を 下げて 片手 子供の

引いて 来る。 子供 大きな 新しい 麥藁帽 可愛い 頃に かけて 白な 洋服の 様な も. 着て

た。 自分の 提げて ゐた蟲 見付ける 母親の 離れて 現き 来たが、 眼を圓 くして 母親の

へ跃 けて 行って、 をぐ い, /\ 引つ ばって 居る ふと、 叉蟲 籠を舰 きに 來た。 母親 早くお

でよ 呼ぶ けれども、 中々 自分の 離れぬ。 ひて 連れて行かう とすると 道の 中に 踞ん でし

まって 到頭 泣き出した。 母親 途方に くれ 乍ら 叱って 居る。 自分 其時蟲 籠の 開けて 兜蟲を

引出し 道端の 相撲 一本 いて 蟲の角 をし つかり 縛った。 そして、 さあと いって 子供に 渡し

た。 子供 泣き やんで きまりの いやう に嬸 しい をす る。 母親 驚いて 子供 叱りながら も禮

をい うた。 自分 はなんだ 極り が惡 くな つたから、 つて さに なった 蟲籠を 打ち ふり 乍ら 駅け

したが、 嬉しい 様な、 惜しい 様な、 かって えない 持が した。 度々 同じ 木の 下へ

134

つたが、 あの 時の 様な 見事な 兜蟲 はもう 見付からなかった。 あの 時の 母子に 再び はな かつ

た。

龍膽花

同じ 級に 野と いふの 居た。 夏期の H キス ショ ンに 演習林へ 行く 時に よく 自分と 同じ

になって 測量な どやって 歩いた。 見ても 病身ら しい、 脊の ひよ 長い、 そして からだの わりに

小さい、 いつも 前屈みに なって 歩く 男であった。 無口で 始終 茫然 考へ 込んで 居る 様な 風で、

他の 一般に 快活な 連中から あまり 歡迎 されぬ 方であった。 然し 極く 氣の 小さい 好人物で 柔和な

眼に は何處 やら 引く はあった。 自分 は此 男の 顏を 見る と、 どうい 譯か氣 毒な とい ふや

うな 持が した。 男の 過去 現在の 境遇な どに 就いては 當人も 別に 話した はなし、 他から

聞いた 事はなかった が、 何とな しに 不幸な 人と いふ 感じが、 初めて 逢うた 時から 胸に 刻み付けら

れて しまった。 或る 演習林へ 林道 敷設の 習に 行った 時の 事で ある。 野の 外に 人が

になって 山小屋に 二週間 起臥 共に した。 山小屋と いっても、 山の 崖に 斜に 丸太 横に 立て かけ、

5

葉で うた 下に 敷いて、 銘々 毛布に くるまって ごろ/ \寢 るので ある。 小屋

隅に 集めた 築. いて、 V 樵の 人足が 炊いて くれる。 一日の 仕事から つて

て、 小屋から 昇る 蒼い 道から 見上げる 愉快であった。 こんな 小屋で 宅へ つた

持になる。 夜になる 天井の 丸太から 吊した ラム プの 光りに 集る 蟲を追 乍ら、 必要な 計算

ゃ製圖 をしたり、 時には ビスケットの 罐を眞 中に、 みんなが ひに なって むだ をす

る。 いつもよ く學 校の ゃ敎授 達の 似が 出て かに ふが、 折々 やいだ かしい 様な 話の

出る もあった。 こんな 人の 話を聽 かぬ でもな く聽 くでもなく、 不安の 浮べて

へて 居る 様で あるが、 時々 かくしから 馴れた 手帳 出して 樂書 をして EJis る。 一夜 夜中に 眼が

めたら はしん として 月の 光りが 竈の 處に 差込んで ゐた。 小屋の 歩く 足音が する から、

隙から いて 見る と、 蒼い 月光の 下で 野が ぶら り. (- 歩いて 居た。 毎朝 起きる とき まり 切つ

かけた つて セォ ドラ イト ボ,' ルを檐 いで 出かける。 目的の 場所へ 着く

器械 を据 ゑて 交る/ \ -觀測 始める。 他人の I 時には 切株に かけたり 草の 上に ねこ

ろんだり していつ もの 樣に考 込んで 居る が、 いよ. (- 自分の になる 急いで 出て 來て 器械

のぞき、 熱心に 度盛り 讀んで 居る が、 どうい もの 時々 とんでもない 讀み違 をす る。

トを控 居る 他の 問から、 それで あんまり ちが ふやう だが 注意され 讀み違 へた ことに

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穿 かつく 顏を眞 赤に I 非常に 恥ぢ てお ど./ \> する。 どうも 失敬した-^ 云ひ譯 をす る。

野に は讀ま せぬ にしたい 誰も つたら うが、 さう いふ 譯にも 行かぬ ので 矢張り

番で讀 ませる。 すると 五囘に 一度 かしら 間違へ 度に 非常に 恥ぢて 悲しい をす る。 そし

てヅ ボンの 抱へ 一層 考へ 込む ので ある。 こんな 風で 二週間 大方 過ぎ、 もう 引上げて 歸ら

うとい 少し 前であった らう。 一日 大雨が ふって 霧が 渦卷 き、 仕事 何も 出来ない ので、 みんな

小屋に 籠もって 寢て 居た 時、 野の 手帳が 自分の 傍に 落ちて たの 何の なしに 取り上げて

いて 見たら、 山に 夥しい 龍膽の 花が 折に 插ん であって、 いろんな 樂書 がして あった。 中に

銀杏が へしの 女の 頭が いくつ もあって、 それから Fate とい 字が 色々 體で澤 書き散らし

てあつた。 仰向きに 寝て 居た 野が 起き 上って それ 見る と、 蒼い 顏を したが 何も 云はなかった。

徕の花

夏、 腦が惡 くて 田舍の 親類の 厄介に なって 遊んで 居た。 家の 淸ぃ小 溝が 音を立て

流れて ゐる。 狭い 村道の 一面の 田で ふに は德川 以前の 小さい 城趾の 岡が える。

風な 屋根 門の すぐ 脇に 大きな 煉の 木が 茂った を擴げ て、 日盛りの 道に 涼し こしら てゐ

137

た。 通りが k りの 行商ん などが よく 門前で をお ろし、 流れで 洗うた 手拭 口にく はへ

涼んで 居る 事が ある。 一日 暑い 盛りに 門へ 出たら、 樹陰で 桶屋が 釣瓶 桶の はめて 居た。

綺麗に 掃いた 道に 竹の 削り屑 屑が 散らばって 棟の 花が こぼれて ゐる。 屋は黑 痘痕の

一癖 ありさうな 男で ある。 手拭 地の 肌着から 黑ぃ 胸毛 はして 逞しい 腕に 木槌 ふるうて

る。 槌の 音が ふの 岡に 反響して 靜な 村里に 響き渡る。 田に 强烈な 日光が 眩しい やうに さし

て、 田圃 暑さに 眠って ゐる やうに 見える。 其處へ 羅宇 屋が 人來て 桶屋の 側へ 下ろす。

いそして 小さ 過ぎて 胸の はぬ 倉の 洋服に、 腰から 股引 脚雜 で、 素足に 草鞋 はいて

る。 古い 冬の 中折れ 深に 着て 居る が、 綺麗に 剃った 坊主ら しい。 「今日 魚が 捕れた

のう」 羅宇 屋が 話しかける。 桶屋は 「捕れた かい、 此頃 はなん 捕れても、 みんな蒸氣でl^ぺ

積み出す からこ ちらの 口へ はは ひらん わい」 とやけ ボン. (- 叩く。 門の 屋根裏に se^ をして

居る 燕が 田圃から つて てまた 出て 行く を、 羅宇 屋は 煙管 をく はへ 感心した 様に 眺めて

たが、 「鳥 感心な はま ない ね」 前置 をし んな話 始めた。 或る 家に 燕が

昔から 巢を くうて 居た が、 一日 家の 主人が 燕に 「お前に 永年う ちで 宿 貸して るが、 時た

土産の つも 持って来たら どう だ」 戯れに 云った 事が あった。 そしたら 翌年 燕が つて

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時、 丁度 主人が 食って 居た 瞎の 上へ 飛んで 来て 小さな 木實を 一粒 落した。 主人 何ん の氣

なしに それ 庭へ 投り 出したら、 間もなく 其處 から 奇妙な 樹が 生えた。 誰も 見た もなければ

いた もない 不思議な 木であった。 木が 生長す ると 面に 味の ぃ毛蟲 がつ いて、

見る も淺 猿し いやう であった ので 主人 此木を 引拔 いて 風呂の 焚き けに 切って しまうた。

丁度 町の 者が 通り か、 つて、 それ 惜しい をした 歎息す る。 どうして かと 聞いて 見る と、

それ 邦で 得難い 麝香と いふ ものであった さうな。 、迄 人で 饒舌って しまって 尤もらし

ぃ窗 をして 輪に 吹く。 ンく桶 をた- - きながら つて 聞いて 居た 屋は此 ちょっと 自分

見て 變な眼 をした 、「そして 香と いふの 樹の事 かい、 それとも 又毛蟲 かい」

聞く、 「ゥ I ン、 そり あそ Q、 麝香に 色々 種類が ある さう でのう」 と、 どちらと 分らぬ

をい ふ。 屋は强 ひて 聞かう ともせぬ。 をた \ ふの 岡に 反響して 楝の 花が ほろ くこ

ぼれ る。 (明治 四十 一年 十月、 ホトト ギス) .

まじよりか

十二月 卅; 日、 今年 限りと 枯の强 吹いた 晚、 本鄕四 丁::: から 電車 下りて 北に 向うた

がしい 人々 中に 人忙 がしくない 君が 交じって 居た。 小さい 新聞紙の 大事 さう

にか i 電車 下りる 止って かま ご. (- して 居た が、 薄汚い 襟卷で 丁寧に 頸から 踬を包

でし まふと 歩き 出した。 ひよ 長い 支那 人の やうな 姿 辻に 立った 巡査が 肩章 を聳 かして

さう 見送った。

明ける と卅 一になる。 前に 文學士 になって から、 しばらく 田の 私立 學校 で英

語を敎 へて 居た。 持の 時間に 君が 教場へ ひると きに 首席に 居る 生徒が 「氣を 付け」 r 禮」

と號令 をす ると 生徒 一同 起立して 恭しくお 辭儀 をす る。 そんな 事から 妙に 厭であった。 そして

分に 碌に 分らない やうな をい 、加減に 敎へ 居る と、 次第々 自分が 落して 行く 樣な

140

力' りょじ

がする 云って 居た が、 一年ば かりで とうく 止して しまった C さう して 月給が なくなって

困る とこ ぼしながら ぶら して 居た。 地方の 中擧に 可也に 好い 口が あって 世話しょう とした

先輩が あつたが、 舍は厭 だからと 素氣 なく つて 了った。 何故 舍が厭 だと 人が 聞く と、 田舍

は厭ぢ やない 田舍の 「先生」 になって しま Q だからと いった。 夫れ 變らす 取ら

なくち 困る といって AJ ぼして 居た。 後一 新聞社へ ひって 居た。 半年 通って 面目に

働いて 居た が、 自分の 骨折って 書いた ものが 一度 紙上へ 載らない ので 此方 出て しまった。

頃で あちこちの 飜譯物 引受けたり、 少年 誌の 英文 など 俥って、 どうか かう はやつ

居る。 時々 小說の やうな 書いて 誌へ 出す あるが、 兎角 Q 評判 もない やうで ある。

分の 說が何 かに 出る と、 方々 雜誌屋 店先で 小說 月評と いった 樣な攔 あさって 見る が、

失望す るに きま 居た。

津邊の 汚い 下宿屋で 極めて 不規則な 生活 送って 居る。 何もし ないで 煙草ば かり 吹かし

て寢 たり 起きたり 四疊 半に がって 居る あれば、 朝から 出掛けて 夜の 歸らぬ 事が

る。 さう かと ふと ニニ 風呂に 行かす 夜更迄 机へ すがった 切りで ッ./ >\ 書いたり 讀ん

だり する。 そんな はいかに 苦し さうな 溜息ば かりして 何遍と なく 便听へ ひって 大きな 欠伸

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をす 癖が ある。 大概 寢坊 をして、 之が めに 飯を拔 きにする 事が あるが、 代りに 夜の

頃から 近所の 肉屋へ 上って 杯に 珍しくない。 體に食 方に かけて は贅澤 で、

金の ある 時には 洋食 だと 無暗に 多量に 寄せて りで 食って しま ふが、 身なり はいつ でも

らしい をして、 床屋へ 行く 極めて 稀で ある。 それでも 机の 抽斗に 小さな 鏡が 人れ

つて、 時に よると 一時間 ラム 0 下で 睨めて 居る 事が ある。 風采 は餘り 上らぬ 方で ある。

酒を飮 まぬ 事と 一度 外で 泊った 事の ない 下宿の 主婦が 感心して 居た。 友達と いふ もの は殆

どない。 唯一 親しく 往來 して 居た 同窓の 男が 地方へ 就職して 行って から は、 別に 新しい

出来ぬ。 唯此頃 折々 込の 方へ 出る 神樂坂 上の 紙屋の 店へ 寄って 話し込んで 居る 事が ある。

此, 紙屋と いふの 君と 同鄕の もので、 主人と 昔中擧 校で 同級に 居た 事が ある。 いっか 偶然

出く はしてから 通りが、 りに 聲を 掛けて 居た が、 此頃 では 寄る ゆる/ \- 店先へ 下して

無駄話 をして 行く。 主人の 妹で 十九になる 娘が 居て 店の 奥の 方で ちらく する 時が ある。 色の

女學生 風な 立ち姿の 好い 女で ある。 晴々 とした 顏で奧 から いて 美しい 見せる あるが、

妙に 冷い をして 君な どに かけぬ 時が ある。 娘の 姿の ちらく する 日に

,H さう 一時間の 餘も 話し込んで 居る が、 Q 見せぬ 自然に 口が 重くて さう かとい

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1 よじ

急に 歸る でもな く、 朝日 切りな しに 吹かして 眞鍮 のし かみ 火鉢の 片隅へ 殼の山 こしら

へる。 一週間に 一遍 屹度 廻って るが、 いつ 来ても 同じ やうな 話ば かりして 居る。 店へ は鄕

里の 新聞が 來て 居る ので はよ く鄕 里の 噂になる。 それから 昔の 同級生の 噂になる。 見や

洋行す や、 井が 內務 省の 參事官 利かせて 居る やうな 話が 出る 君は氣 の乘ら

ぬ返辭 をして ふっと 話題 を轉 する のであった。 .

今日 夕刻から 神樂 坂へ 廻って、 紙屋の 店で 暮の 街の 往來を 眺めて 居た。 店の 出入 忙し さう

であった が、 主人 變らす 落着いて 相手に なって 居た。 兵隊が 通る。 「兵隊 も吞氣 でい

いな あ」 君が ふと 「あなた も氣樂 でせ う」 といって にやくした。 「さう

あ、 まあ 兵隊の やうな もの だら う」 といって 笑った。 學校を 出る とすぐ に生眞 面目な

屋の 旦那に なって 居る 主人と、 自分の 様な 人間との 境遇の 著しい 較べて 居た。 そこへ

外から 此處の 娘が 珍しく 髮を島 田に 上げて 薄化雜 をして 車で つて 来た。 かへ 様に 美しい。

いつにな 少し はにかんだ 様な 笑顏を 見せて く會釋 しながらい そく 奥へ ひった。

外套の 襟の 中で をす くめて、 無沙汰な をして 娘の 捨てた 下駄の 派手な 鼻緒 見つめて

居た が、 店の 時計が 鳴り 出す 与^に 出た。

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ffl 本屋へ 廻って 原稿料の 三十 圓を 受取った。 手を切り さうな 圓札を 重ねに 折り かへ

銅貨と 絡に 財布へ 押し こんだ を懷に 人れ て、 祌保 町から 小川 をし ばらく あちこち 歩いて

居た。 美し 競うて 飾り立てた 店先 に^き 込んで 居た。 はかう して 店先 を視 くの

がー つの しみで ある。 殊に 懷に 金の ある 時に さう である。 氣な根 津邊に 燻ぶって 居て、 時た

此處ら 明るい 町の 明るい 店先へ 立つ 全く^ 世界へ 出た 様な 持に なって 何となく 愉快で

る。 時計屋 だの 洋物 店の 硝子 子供の やうに のぞいて 歩いた。 吴服屋 美しい 帶が 飾って

つた。 今日 ちらと 見た 紙屋の 娘の に似て 居る。 正札 見る 二十 とあった。 葉書 屋へは

ひったら 面に 散らした 新年の I ドの 中には 賫れ殘 りの クリ スカ— もあった。 誰に 贈る

あても ない 一枚 五十 錢で 買った。 菓子屋の E さめる 様な 店先で 止って 許の 摘ん

見たり して 居た が、 とうく 蜜柑 四つば かり 買って 外套の 隱しを 膨らませた。 眼鏡屋の 店先

へ來 ると 覘き股 鏡が あって 婆さんが 人覘 いて ゐる。 此方の ズを覘 いて 見る 西洋の 美しい

街の 大通りが 浮き 上って 見える。 馬車の 往来が 織る 様な 町の 側の 人道の 並木の 下に 組ん

男女の 群が しさう 通って 居る。 いて 居る 後ろ をヂ ヤンく 電車が 喧し

立て \ くと、 切る やうな 風が 外套の ふる。 隣りの文房具店の前へ來るとしばらく^^^ロ

144

りょじ

飾り 眺めて 居た が戶を 押し開けて ひって 行った。 眩しい 様な 瓦斯 燈の 下に 狭く 並べた 繪具

手帳 封筒が 美しい。 水色の 壁に 立て かけた 眞. in 石膏 細工の 上に レットが つて 細工の

橄攬の 葉が して ある。 隅の 方で 小僧が 二人 掛け合 ひで 眞似 事の 英語 を. 饒舌って 居る。

前屈みに なって 箱の 中に 並べた まじよりか あれ か是れ かと 物色して 居る が、 頭の 上の

斯の光 薄汚い 鼠色の 卷を隱 もな 照して 居る。 元氣 よく 呼んで、 手に 取り上げた

一枚の 皿と 五圓 札と をつ 出す と、 小僧 有難うと いって 君の じろ 見た。

小僧が 包む もどかし さう 待って 居た が、 受取る 急いで 表へ 飛び出した。 さう

振らす にいき なり 電車へ 飛込んで しまった。

君が 此の まじよりか はう 立った 久しい 前の 事で ある。 いっか 同鄕の 先輩

の書齋 美しい 鎗の ついた 長方形 0 淺ぃぺ ン皿を 見. 事が ある。 これが まじょり かとい つて

安くない もの だと へられた。 此の 文房具 店で 同じ やうな 色々 見付けて 欲しい

立った が、 今日 迄機會 がなかった ので ある。 今夜 買った 半月形で 蒼海 原に 孕んだ

檣の 巨船の である。 夕日 受けた 帆は柔 かい 卵子 をして 居る。 海と 空の 深い 透明な

居る と、 かしら 遠い ゆかしい 樣な想 ひがす るの 喜んで 買った。

145

欲しい 思った 買った 愉快で あるが、 電車の ゆれる につれ 腹の 奥底の 方に 處か不

安な 様な 念が 動いて 居た。 君は鄕 里に 年老いた 貧しい 母を殘 して ある 出した ので

る。 圓で皿 買っても 暮の拂 ひに 困らぬ。 下宿 洗濯屋の ひを濟 ませても 二十 あれば

りる。 今年 例年の 思へば 樂な暮 であるが、 去年 一昨年の 苦しかった 暮に は、 却って 覺ぇ

なかった 一種の 不安と 淋し さを覺 えて、 膝の 上の まじよりか 皿と、 老い さる 母の 顏とを

ベた。 丁目で 電車 下りる 皿の 脇の 下へ 抱へ 見た 工合が 惡ぃ。 外套の 隱し へね ぢ込

むと 蜜柑が つかへ るから、 片手で しっかり さげて 歩き 出した。 枯が森 町の 方から 大學の

を禍卷 いて 来る 度に、 毎の 瓦斯 燈が 寒さう 溜息 をす る。 此の 空ら 風の を突兀 とし

て、 忙し さうな 往来の 眺めて 歩く。 知らぬ 人ば かりで ある。 忙しい 世間 君に はな

い。 かなしに £ で覘 いて 見た 眼鏡の 中の 大通り 浮べて、 異鄕の 歩く 様な ひがす

る。 高等 校の 廻る 時に 返って 見る と本鄕 通りの 黄色い 光に 包まれて、 底に 歳暮の

世界が 動搖 して 居る。 彌生 町へ 一歩 込む 急に 暗で 何も 見えぬ。 此の間の 夢の 様に 歩い

居る と、 暗い 中に 今夜 見た 光景が 幻影と なって 浮き出る。 まじょり かの 帆船が はれて 蒼い

もな かけて 行く。 海に 空に 船に も歲は 暮れ か、 つて 居る。 逝く 年の あらゆる

146

せて もな を、 u つて 行く。 船に 小さくな つて つて 居る。 紙屋の 水々 しい

田で つて 居る。 淋し さうな 老母の 顏も 見える。 つて じっとして 居る 人々 の顏 にも 年が 暮れ

か& つて 居る。

片手の 0 胸に 引きし める にして 歩いて 居た が、 突然 口の 中で 「三百 圓も ある

とい、 一と 眩いた。 (明治 四十 一月、 ホトト ギス)

先生 通信

ゲェ スから

寺の 鳩に 買って 遣る こと 日本に 限る こと、 思つ 居ました が此 處のサ マルコ 0

でも 同じ こと やって 居ます。 祖し 豆ではなくて 玉蜀黍 細長い 圓錐形 紙袋に つめたの

|買 居ます。

大道で 煮立た せて、 章魚 を寶 つて 居る 男が 居ました。

ヴ. 1 ニスの 朽ち 汚れて 居る が、 それ 美しく 朽ち 汚れて 居る ので 壁の がれた も、 乃至

から ぶら下げ も、 悉く ふに はれぬ しくく んだ 好い 色彩 示して 居ます。

霜枯れ時 だのに、 美しい 木の 綠と、 王の やうな 水の 色と 古びた 家の 茶に よくう

148

ii のへ

つります。

ゴンドラ 面白く、 貧しい 美しく 見えます。 (明治 四十 ミ年 一月、 東京 朝日 新開)

馬から

羅馬へ 來て累 々たる 廢墟の 彷徨して 居ます。 今日は 市街 離れて ルバ 湖から a

ディ パパの 方へ 古い 火山の 見に りました。 到る 處の 山腹に オリ ヴの實 熟して、

羊の 群が 遊んで 居ます。 山路で、 大原 女の 様に 頭の 上へ 枝と 蝙蝠傘 一度に 束ねた

つけて、 靴下 あみながら 歩いて 來る 女に. I: ひました。 角の 長い 牛に 引かせて るの

あれば、 驢馬に 炭俵 積んで るの ありました。 蜜柑の あれば もあります。 眼と 髮の黑

女が 溜の はりに 集って 洗濯 をして 居る 傍に は鷄が 群れ遊び、 豚が 路傍で 鳴いて 居ます。 -ヴ

チカ ンもー 見ました が、 此處の 名物 旨い 許りの 様で 有ります。

(明治 四十 111 二月、 1. 朝::: 新聞)

:E 林から (一)

14Q

今此處 のべ ルリ イナ 座で 「タイ フン」 芝居 やって 居ます。 作者 匈牙利 人で、 日本 Q

の留攀 生の こと 仕組んだ もの ださう です。 大變 人氣が 好い 相であります。 主人公 Q 日本人 Q

ドクトル - タケ ラモ . ニト ベと ふの ださう で、 此の タケ ラ乇 だけで 行って 見る がしな

成ります。 人の 話に よると 中々 能く 日本人の 特性 穿って ゐて、 寧ろ 日本人の 美點を 表現して

相です が、 タケ ラモに 恐れて まだ 見ません。 (明治 四十 11 一年 四月、 東京 朝日 新聞)

伯林から (二)

今度の 旅行 氣の惡 日が 多くて、 殊に 瑞西 では 霧の 爲に アル ブスの 見えす、

合に 詰まりませんでした。 それでも ブランの 氷河 見に 行った 天氣が 好くて 面白う 御座

いました。 寒暖計 一本 下げて 氣溫を 測ったり して 歩きました。 鶴嘴の 様な さげて 繩を 肩に

いだ 案內 者が、 英語で ガイド 入らぬ かと ふから、 お前 英語 話す かと 訊く と、 い. - えと

ひました。 ヒら ない 用心に 靴の 上へ 靴下 穿いて、 一人で 氷河 渡りました。 好い 持でした。

氷河の 側はモ 1 'ヴェ .パー とい ふ險路 で、 高山植物が 山の 間に 綴り、 處々 瀧が あります。

此處 から 谷へ 下りる 途中に、 小さな タヴァ といった 様な 家の 通ったら、 後から 追つ

通のへ

けて 來て、 お前 日本人で はない かと 訊きます から、 うだと 答へ たら 私は英 人で H トン

もの だが、 日本に 年間 居て あらゆる 高山へ 登り、 富士へ は六囘 登った ことがあ ると

話しました。 細君 宿屋の 前の 草原で 靴下 編んで 居ました。 其處 から 谷底へ 下りて シャ 一一

村まで 歩き ましたが、 道端の 牧場に 首へ をつ けた 牛が 放し ひに してあって、 鈴の 音が

非常に n ヂァス 聞え ます。 番人の 子供 婆さん 本當に 総の やうで 愉快でした。 日本に

ある 樣な 秋草が 咬いて 居たり、 踏切番の 小屋に 菊が^い 居たり、 路傍の マリヤの 御堂に 花が

へて あるの 見ました。 シャモ 二の町へ 入る 頃に は、 もう 日が 暮れ か& つて、 紅な 夕陽が

ゾンの 氷河の 染めた は實に 綺麗でした。 村の 町に 名物の 瑪? ^細工 やら 牛の 角細工 並べ

許り 連なって、 斯うい ふ處に はお 極り キネ マが 自働 ピアノで 呼んで 居ました。 巴里邊

りから 來て 居る らし 派手な 服装 をした 女が 散歩して 居ました。

シャモ 一一 から ゼネ ヴへ歸 つて、 郊外に 老學 者サラ サン 訪ねました。 大變 喜んで へて くれ、

自分 0 馬車に のせて 町中 を案內 して 吳れ ました。 晝釵を ばれてから 後に 其廣ぃ 所有地 見て

きました。 人の 細君が ども Q 論文 を佛譯 して 此處の 學術雜 誌に 載せて 吳れ たの ださう です。

此處 はもう 佛蘭 西の 國境 近くで、 邸の ベランダから 牧場 越しに 境の 森が 見え、 又ヴ オル 1.

住って 居た 見えます。 毛氈の 様な 草原に 二百 年も經 つた 柏の 樹ゃ、 百年 餘の 栗の

ぼつく 並んで、 をう ねった 徑が 通って 居ます。 地所 Q 片隅に 地中から 氣を 吹き出した

込んだり する 井戸が あって、 處で其 理窟 を說 明して 聞かせました。 俄氣壓 が來る 時には

噴出が 盛に 成って 麥藁惰 噴き 上げる 杯と 話しました。 それから 小作人 Q 住宅 小舍、 舍-

糞堆迄 見て 歩きました。 小作人 等に 々了 3 I と聲を 掛けて、 1 話して 居ました。 農家の

方な 古い 昔の 相です。

Q 人口から 玄關 迄は橡 Q 並木が つに いて 居ます。 兩脇は 林檎 畑で 丁度 林擒が 赤く 熟して

ました。 書齋 には羅 馬で 買って たとい 大理石の 半身像が 幾つ ある。 サラ サン 々其

撫で さすって 見せる Q でした。 中に 頭の 大きな 少年の 像が あって 大變に 好い顔

して 居る。 先生の 一番 目の 嬢さん 未だ 子供の 時分 半身像に すっかり ラヴして しまって、

さんの 椅子 を踏臺 にして 石像に 接吻した さう です。 其樣を 油: li に畫 かした 額が 客間に か" つて

居ました。 霧が あって 小雨が 降って、 誠に かな 日でした。

ゼネヴ からべ ルン、 チュ リヒ、 ルツェルン など 見て 廻りました。 ルツェルンに 戰爭と

Q 博物館と いふの があって、 日露 ハサ 部に 惡な錦 搶が澤 陳列して あつたので 少し 厭に

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通のへ

成りました。 到る 處の谷 斜面に 牧場が 列な り、 林檎が つて、 美しい だと ひました。

それから トラ ブルク 見て、 一一 ンべ ルク へ參 りました。 中世の 獨逸を 見る 樣な氣 がし

.一! 御座いました。 廳の 床下の 囚獄を 見た は、 若い 娘さんが ラム プを 下げて 案內 して

吳れ ました。 罪人 何も 無い 板の 寢床 にね かされて、 パン 貰へ なかった と咄 しました

緒に 行った a ル帽の 老人が 色々 質問 出す けれども、 娘の 內者は 詳しい 何も 知らない

Q 要領 得ませんでした。 此れから 地下の 廊下 十五 行く 深い 井戸が あるが 見に 行き

すかと いふ。 しかし 老人の 細君が 不贊 成を唱 へて とうく 見す 引返しました。 それから 畫伯ヂ

Q 住居の 見ました が、 其處の 入場券が 富札に 成って 居ます。 名高い 古城の 片隅に

刑具 陳列した 塔が あります。 色の 蒼い 小さい 女が 明して 歩く。 一緒に 見て 歩いた 學生 風の

男が 此案內 者に 「お前さんの 様に 毎日 朝から 晩まで 身の 毛の 立つ 様な 繰返して 居て それで

何ともありません か」 意地の 悪い こと をき くと 苦笑して 居ました。 は其埋 合せの やう

積り で、 葉書 を少々 許り 買って やりました C さう して 白銅 遣って 逃げて ました。 ミュ

では 四日 泊り ました。 ピナ I クの畫 堂で はムリ ゃヂ やべ クリン など 飽く程

見て ました。 夫から ドレスデン やら H ナヘ 行って 後、 ワイ ルにニ 許り 止まって、 ゲ—

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Q した C テが 死ぬ 前に 庭の 寄せ 皿へ 入れて 分析しょう として

たら、 急に 悪くな つた Q ださう で、 書齋の 窓の 下の 高い 書架の 上に 入れた 孤が 今でも 置いて

あります。 隣の 寢窒 へ擔ぎ 込んだ が、 寢臺の 上へ 横に 成る ことが 出來 なくて 肱掛 椅子に 凭れた

だった さう です。 椅子の 横の 臺の 上に は藥 瓶と 急須と 茶碗と が當 時の ま、 置いて あります。

机で も寢窒 意外に 質素な 驚きました。 二階の 窒々 色々 物な 並べ あり

ますが、 私に ゲ.. 'テの 實驗に 使った 物理 器械 標本な どが S 御座いました。 シラ

質素と ふより 寧ろ 貧しい 位でした。 ゲ,' テの 家に 制服 着けた 立派な 番人が 數人居

したが、 シラ IQ 方に 猫背の 女が 唯一 人番 して 居ました。 裏庭の 側の はもう 他所の 家で、

職人が 細工 をして 居た やうです。 シラ I 町の 突當 りの 大きな 當世 風の カツ フエ,' で、

窓の 中から 廿 世紀の 男女が、 通り か、 つた 毛色の つた 珍し 相に 物して 居ました。

落葉が 散り敷いて、 古い 一.:^ 壁に 血の をした 蔓が 絡み、 かい 日光 宮城の 番兵の

光って 居りました。

はもう 十日 許りで 伯林 引上げ、 ゲッ チン ゲン へ參 ります。

(明治 四十 一一 一年 十月、 東ハぉ 朝:; "新 開)

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乃- \

ゲッ チン ゲン から

去年の 降誕 旅で しました。 維納で 遲く街 うろついて、 クン ネン バウ ムを寶 つて 居る

見た 時に 丁度 門松と 同じ だと 思った のと、 ディ で廿 五日の 夥しい 人が 狹ぃ 暗い

歩く 見て 淋しい をした きりで したが、 今年 は此處 の田舍 で田舍 らしい 純粹 Q

祭を經 験し ました。 廿 二日の 宿の 主婦から、 天主 敎の 幼稚園で 降誕 祭式が あるから 行かぬ

はれた ので 行って 見ました。 主婦と 娘と、 家事の 見習 旁"、 手傳 ひに 來て 居る とい スチュ

1 孃と四 人で 行きました。 狹ぃ窒 玩具の 様な 小さい 俄い 机と 椅子 並べて、 夫に 一杯 子供

がうよ くして 居る。 みんな 貧し 相な 兒ば かりで、 中には 風邪 引いた のが 大分あって、 可哀相

に絕 えす をして 騷々 しい。 白の 頭巾に 服で 丸く 肥った 達が 一人 傍に 立って 監督して 居る。

.窒 後方の 扉が 開いて 居る 外側に は、 此邊の 貧民が 一杯 立って 騒々 しく 話して 居る。 机に 並べら

れた 子供の 中には 延び 上って 後の 群集 珍し 相に 眺める もあります C すると シュ H スク I

つて 行って、 パクく 叩いて ふむきに 坐ら せる。 其內に 人の子が、 群集の から

の顏を 見付けて 、急に しくな つて 出した。 シュ. スタ 抱いて 母親の 處へ つれて 行って

J 55

つと すかして 席へ つかした が、 矢張^ をして 向いて 居る。 大勢の 子供の 中には 欠伸 をし

てゐ るの ある。 眠くて クリ/ \ ^す るの もあります。. 堂の 隅に 大きな ンネン バウ ムが 立て

てあつて H スタ 蠟燭に を點け 始める とみんな 其方 見る。 樹の 下の 小さな 堂の 中に

人形 G 哲孩兒 寝て 居る。 纏て 背中に 紗の翼 Q 生えた、 頭に 金の 着た 子供の 天使が 二人

て來て 基督 孩兒 の兩 側に 立つ。 天使の 一人 は大變 咳が 出て 苦し さう 背中の 翼が へて 居る が、

それでも 我慢して 懸命に すまして 居る。 そして 大きな 可愛い をして 私の 珍し さう

居ました。 其內 老僧が 出て 來て 挨拶 始めました。 あまり 立派で ない 外套 着た ま、 で、 眼鏡

Q 上から 子供と 客と 等分に 見ながら、 鼻へ つた 聲で 大分 長く 述べ立てました。 ワイ ナハト

起原 杯から 話し ましたが、 子供の 絶え間な しで 騷々 しく、 咳の 出ない 大分 屈して

やうでした。 今日 子供の 贈物に する 人形の 着物 殆んど 手で 縫うた H スタ 何某が、

氣で缺 席され たの は遣憾 であります とい ふやうな 挨拶 ありました。 此挨 移が むと、 監督の

さんが 音頭 をと つて、 子供の 唱歌が 始まり、 それから 正面の 壇へ 大きい 子供が 交る 出て 譜誦

をす ると、 尼さん 心配して 下から 小さい 聲で 一緒に 諳誦す るので した。 それから ワイ ナハ トマ

ついで 出て 來て おどけて はせ て、 それで 式が 濟み お客さん みん な刖室 入って、

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通のへ

此處へ 陳列した 子供へ G 贈物 ー覽 する でした。 成程 此れ 子供が 喜ぶ こと だら うと ひまし

た。 式が むと、 室の 外に 居た 貧民が 一時に 込んで 施與を 受けよう とする ので、 中々 大混雜

で、 やっとの 事で 出て 来ました。

降誕 一週間 程、 市役所 前の 場に 歳の市が 立って、 安物の 玩具 駄菓子な どの 露店が 並び

ましたが、 何時 行って 見ても 不景氣 御客さん は餘り 無い やうでした。 手の 爺さん 婆さん

長い 煙管 吹かしたり 編物 をして 居る ので 有りました。 見して 居る と、 「ドクトル Qrc; さん、

降誕 贈物 如何です」 呼び掛け るの 有りました。 町の 店屋へ 買物に 行く と、 お前さん Q

でも ワイ トを祝 ふか なぞと 訊く のが 大分 ありました。

降誕 祭の 初の 日に は、 主婦さん が、 タン ネン バウ ムを 飾る から 傅って 吳れ ぬかと ふので、

御手 傳ひ しました。 大層 古くな つた 御菓子 を黃 色い リボンで 縛った のが 箱あって、 此れ 吊す

0 だとい つて、 縱の樹 外の 物と 一緒に 吊しました。 此れ 十四 前にお 祖母さん 買った

菓子 だとい ふこと でした。 同じ 宿に 居る 女優の タルク 壤も、 前垂な どかけ 三階から 降りて

ひました。 一番 高い 枝に 吊す 梯子が 入用でした。 危ない 云った 諸かないで、 スタ

ルク 嬢が 吊しました。 夜の 十一 時の 汽車で 主婦さん 息子が つて ると ふこと でした。

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息子 主婦さん の繼子 ださう です。 息子 H 1 ベル H ルド の電氣 工場に 勤めて さう で-

それが イナ トには 久し 振で ると ふので、 間中から 妹娘が 贈物に する 編んで

した。 到頭 出來 上らない とこ ぼして 居ました。 都合で 夕食後に バウ ムに灯 をつ けました。 綺麗で

した。 室の 片側へ 並べて、 一同の 贈物が 陳列して ありました。 二人 Q 下女 夫々 反物

つて 喜んで 居ました。 親子が 贈物 取り はし 「ムック I」 「へ I ネ」 とお 互に 接吻す

一寸 不思議に はれました。 主婦が ピアノの 前に 坐って、 なで ワイ ナハト をうた ひました-

雪の ふるのが 本當 ださう です が、 此晚は 暴風雨の 様な 雨が 降って ひどい 天氣 でした。 記念に バウ

ムの 寫眞を 撮り 度い 思って、 町へ マグネシウム ひに 出ましたら、 街の 家々 窓に もソ イナ

ハト バウ ムの 光が 映って、 處々 音樂も 聞え 愉快 さう 見えました。 十一 過ぎに 息子が つて

ましたが、 はもう 窒へ歸 つて 床の 中で 新聞 見て 居ました から、 は會. ひませんでした。

夜更ける Q 窒で 低い 話聲が 聞え 居ました。 息子 それから 三日 目の 食後に つて 行き

したが、 其の 食の 席で 主婦が サンド ウイ ツチ 持へ 新聞に 包んで やりました。 汽享の 着く

夜半 だからといって、 一番 厚い パンの 片を 選って 居ました。 食事が 濟んで 汽車の 出る 大分

あるので、 息子 ピアノの 前へ 坐って ワイ ナハト 歌な ど彈 いて 居ました。 主婦さん 息子

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通の'、: fcjfe

始終 色々 話して 居り ましたが 兄妹の 間に 一向 何の もありませんでした。 それでも ネクタイ

はやつ 出来 上った さう でした。

昨夕はジルヴ^^ スタ, 'ァ ベンドと いふので、 バウ ムに孅 燭を點 しました。 そして 食後に

ぃプ ンシ 呑んで、 御菓子 かじりました。 食堂の 棚に 飾って ある 葡萄が 毎日 少し づ、 なくな

るの 不思議 だとい 話が 出ました。 今日はた つた 四つに なった といって わざく 見せて くれ

した。 或る 主婦が 盜み食 をす 下女 懲す爲 御菓子の 吐劑を 入れて おいた 聞きました。

タルク 孃は 下稽古で 遲く なって やって来ました。 此人は 何時でも 忙し いくとい つて 居ます。

田舍 芝居で 毎日 つた を演, ずるので、 下讀 みが 忙しい さう です。 日、 いつも 外出す 時間に

出ないで 窒に 居ましたら、 隣の 食堂で 下讀 みが 始まって 一寸 驚きました。 後で 聞いたら レツ シン

Q r ンナ. フォン. ルン ヘルム」 とかであった さう です。

大晦日 Q 十一 一時に 日本へ 送る 年賀 狀を 出しに 出ました。 町の 辻で 子供が 一三 往来の

人に 投げ付けて 居ました。 市役所の 邊迄 行く 暗闇の 場に 人が 大勢よ つて 居て、 町の G 二階

三階から 寒い のに あけて 下を观 いて 居る 人々 顔が 見える。 市役所の 時計が 十一 一時 打つ

同時に 隣の ン會 堂の 鐘が 出す。 群集が 度に U 1 ット. ノィャ I ル、 くと 叫ぶ。